２３話/内なる貴女との別れ ページ25
その島の名は、まだない。誰も良い案を提案できなかったのか、リゾート建設地とだけ呼ばれていた。浜辺にある墓地を撤去しようという話もあったが、当時の島の惨状を知るアンデルセンより、墓地を撤去するのなら自分の力で建設を中止させると脅したおかげで、墓地は撤去されずにすんだようだ。同時にリゾート地に墓地があるのはどうかという話も浮上し、工事は進めつつも停滞の方向になりつつあった。
これはアンデルセンの功績と言ってもよいだろう。彼のおかげで、皆がこの墓地に訪れることができた。彼らの勘が告げる、海賊として、否。人としての最後の戦いを目前として。失った人たちに会いに行くことができた。
「ここが皆の故郷なんだ......」
「ロジャー、少し態度が柔らかくなったか？」
「まあね。僕もこの海賊団の一員だし、いい加減ちょっとお堅いのはやめようと思ったんだ。僕がここにいる時間も、限られているからね。」
ロジャーは子供を抱え、後ろから見守るだけにすると。海賊とはいえ彼らの邪魔はできないと考えた海兵らも、ただ後ろから見守ることにした。
二人は未だに眠るヴィアを車椅子に乗せ、墓地に眠る友人や家族らに会いに行く。だが、レイナだけはその足を動かすことに躊躇いを感じていた。何度も直面はすれど、未だそれを眼前で受け入れたことのない、Aの死。もし受け入れられず否定した場合、もはやレイナとしての自我も消えるのではないか。レイナとA、二つの人格と記憶を共にしたここしばらくの旅の記憶さえも。それを失うのが怖いと感じているレイナ。
彼女の背中を、本来なら敵であるはずのコビーが優しく押してくれる。
「大丈夫。今あなたがここに立てているのは、仲間がいたからです。あなたに何があっても、彼らが助けてくれる。今なら、僕たちもいる。彼らの中には、まだ今を受け入れてない者もいると思いますが......受け入れた僕たちが、あなたを支えると誓います。」
「......まるで女誑しだな。」
「えっ、そんなつもりは」
「冗談だ。ありがとう、コビー。墓に行ってくるよ。」
背中を押されたレイナが墓地に向かう。そこには数々の名前が刻まれた墓石があり、その中にAの名も刻まれていた。
ここに、かつて自身が憧れた者がいる。魂はなく、骨すらも朽ちたことだろう。だがそれはAの死を再認識するのに十分足りるものだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
