１７話 ページ19
しばらくして彼女は旅立った。鳥が空を飛ぶように、空高く。今まで声だけしか聞かなかった彼らでも、彼女の異様さを瞬時に理解しただろう。しかし同時に思う。あんなに自由を楽しんでいるような顔して、どうして復讐できようか、と。
当たり前の疑問だ。健常者の彼らには、異常者の考えることなど分かるまい。それはAも同じこと。どうして自分は今、復讐より自由を謳歌しているのかと。そう考えていた。ここしばらく、カンヌにあらゆる行動を制限されていたためか？心の奥深くまで支配されていたためか？
■■
その言葉が彼女の脳内に過る。もう失わない、裏切らせない、私のもの、私が愛し私を愛す従順な子、何より■■らしいことができる子。カンヌが繰り返しそう言っていたのを思い出し、あんなに荒れた波のようだった復讐心は、穏やかな波へと変化していったのだ。
ならば他の復讐相手を思い出そうと、スレットとヴィアのことを思い出す。しかし、ヴィアは直接関わることはほとんどなく、スレットは直接的な加害者ではあるが、最後の会話があった。
身分さえ違うのなら、お前の願いを本当の意味で理解できる男なら、俺はお前を■■になっていたかもしれない。
戯言。ある島へ到着したとき、その足は自然と別の方角へと向けられていた。この広い海で、たった一つの島を見つけ出すなど不可能に近い。だがもっと上へ、もっと空高く、鳥よりもずっと自由に飛び続ければ、それらしい影は見つかるかもしれない。Aはこの世に生を授かってから、初めての人間らしい願いを胸に、もう一度空高く飛んだ。
生まれ故郷の島に行かなければ。あそこに行けば、本当の意味で自分のやりたいことが見つかるかもしれない。
復讐なんて面倒なものより、もっと単純で、楽しいことが。
狂気に満ちた人間が、理性と向き合う瞬間だった。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
