１１話 ページ13
「お前、昔どこかで会ったことあるか。」
ああ、やはり。彼はどこまでも鋭く、過去も未来も事細かく覚えている。私のようなどうでもいい存在さえ覚えているスレット、さすがはローリアス家が長男というべきか。
私も彼らと同じ、例の国の出身者だ。だが貴族ながら思考まで汚染されていなかった両親は、一人息子の私を連れて遠い島まで引っ越した。今は人なんて一人っ子いない無人島で暮らしてはいるが、あの日の両親の判断に恩を感じている。同時に後悔した。子供であっても、もし私に一欠片の勇気があれば。この国が貧民であろうと貴族であろうと、彼女の論の証明を手伝えたのではないか。
その後悔はすぐにかき消される。あえて正体を告げず、彼に国の行く末を聞いてみたのだ。どうせ王宮辺りで爆発が起き、そこから連鎖するように国自体が消えたのだろうと思った。違った。爆発は島全体にまで広がっていた。
ニュースの誇張表現でも、政府が都合の悪いものを書き換えたわけでもなく。当事者の言葉はこうも刺さるものなのかと。おかげで長年の後悔が消えてくれた。あの場にいたら、私は確実に死んでいただろうから。
「で、どうなんだ。俺にこんなこと答えさせたからには、お前も」
「私も君たちと同じ、あの国の出身者だ。コスモス家という名前を知らないかい？ローリアス家よりかは上の存在だと自負している。」
「国から逃げたお家の名前など、聞かされてもいない。ちなみに俺は国に仕えるお家の子だが。」
「マジかよ。......ごほん、他に何か聞きたいことがあるなら、なんでも聞いていいよ。私は優しいからね。」
それからも、取材と称して数々の話を聞かせてもらい、同時に彼らが欲する情報を提供した。私のペンなら、今すぐ魂を強制的に入れ換える本が書けること。四肢を取り戻す本だって。そのためには物語として成立する本でなければいけないこと。書くとしても、長い時間を要すること。
間に合わせでも最初と最後が繋がれば、それらしい物語にはなる。だが書くからには、少し気合いを入れて書きたいということも。スレットは少し苦い顔をしたが、それが船長のためになるならと、話を飲み込んだ。
どこか迷ってるように見える彼に、当たり前の事を問うてみた。
「Aとレイナ、二人とも君が恋した女性だったね。もし極限の状況下において、どちらかを選べと言われたら。君はどちらを選ぶ？」
スレットの表情が無になる。
やはり、か。彼は今、船長以上の迷いが生じていた。
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作者名：御法川 | 作成日時：2024年2月19日 3時
