生姜が好きなヴァンパイアさん【伏黒恵】

32、手作り生姜焼き ページ34

Aは一人、人間界に降りた。

目的はー、自分の家の様子を見に来るためだ。

音もなくかつて、Aが育てた生姜畑に忍び込む。

(…なんか、自分ちの畑に忍び込むって、変な感じ。)

生姜は立派に育っていた。

これらも丹精込めてAの母が作った物だ。

生姜を傷つけないよう、ゆっくり畑を歩く。

Aが住んでいた家は電気が消えていた。

きっと家族のみんなは寝ているのだろう。

Aは、腰をおろし、そばにある生姜の葉を優しく撫でた。

畑を出て、家に近づいた。

カーテンが閉められてない窓からそっと中を覗くと、母がいつも調理してた厨房があった。

当然ながら愛する母の姿は見えない。

ヴァンパイアとなった今では、この姿を家族に見せることできない。

すなわち、家族に会うことなどもうないのだ。

Aは少し寂しくなった。

ー皆元気にしているかな。

窓を離れ、もう一度畑を見る。

「そうだ、確かそこに」

少し歩くと、木の板でじいちゃんが作った棚があった。

採れた生姜を販売する、いわゆる無人販売がある。

その棚に、幾つか生姜があった。

一袋100円。

お手軽な値段で生姜が売られている。

Aは一袋取ると、側の缶の中に100円をそっと入れた。

これで、生姜焼きを作ろう。

確か冷蔵庫にお肉が残ってたはず。

玉ねぎは、あったけ。

ーま、いっか。

Aはそっと、人間時代を過ごしてきた家を離れた。

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