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信号待ちをしていると、赤ちゃんが花に興味を持ち、その小さな小さな手を一生懸命に伸ばしていた。 悠仁は手に怪我をさせないようにと、そっと花の距離を遠ざけていた。
「赤ちゃん、可愛いね」
「そうだな」
二人して小声でやり取りをしていると、それが何だか赤ちゃんにも伝わったようで、今度は私と悠仁の顔をじっくりと見つめている。 思わずニマニマとしてしまう私に、悠仁が「……A、顔、かお」と、白い歯を見せ、笑った。
*
「悠仁……最後に言っておくことがある。 お前の両親のことだが」
「いいよ、興味ねーから」
お爺ちゃんの発言をばっさりと切っている悠仁は、花瓶を片手に突っぱねるように言った。
「お爺ちゃん、最後とか不謹慎な言葉言わないでください。 仮にもココ、病院ですよ。 せめて、ボス前に修行をさせる仙人になってから出直してください」
思ったことをそのまま口にしたら、悠仁が「プフッ!」と笑う。
あまりにも不謹慎なことを言い出すから、ちょっと頑固なお爺ちゃんにはこのくらい言っておかないと、話が続きそうだ。
お爺ちゃんは、自分のシナリオ通りにいかなくて、拍子抜けしたのだろう。 長年付き合いのある私も悠仁もそんなお爺ちゃんの空気を感じ取った。
しかし、お爺ちゃんのカッコつけ談義は止まらなかった。 悠仁は、とうとう「クソ孫が!」と言われている。 いつもの二人の雰囲気に私は内心小さく笑っている。 ……悠仁は困っているが。
お爺ちゃんは、あーだこーだと悠仁に言ってはいるが、どの発言も悠仁を心配していることが分かる。 悠仁もそんなお爺ちゃんの気持ちを分かって反撃していて、心和む光景に思える。
「……Aちゃん、もし悠仁にこの先彼女がいなかったら、最後の頼みだ。 どうかもらってやってくれ。 不甲斐ないクソ孫だが」
「何言ってるんですか、お爺ちゃん……」
昨日話した内容が少し頭を過ぎって、心の内側に小さな波が立つ。
「……悠仁」
「んー?」
「オマエは強いから人を助けろ」
背中越しの声は、最初の時と何か違う。
「手の届く範囲でいい、救える奴は救っとけ。 迷っても感謝されなくても、とにかく助けてやれ。 オマエは、大勢に囲まれて死ね。 俺みたいには、なるなよ」
「……お爺ちゃん?」
二人してお爺ちゃんの言葉に聞き入っていた。 だから――
「爺ちゃん、死にました」
息をする事を止めたお爺ちゃんの姿を、最後に目にしなかった。
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クロワッサン(プロフ) - 猫助さん» たいっへん長らくお待たせいたしました(-_-;) コメントありがとうございます。 最新話更新いたしましたのでぐっすり眠れますね!! (2021年4月28日 3時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
猫助(プロフ) - 先が気になって気になって、夜しか眠れません…作者様、続きを…続きを…!(密かに応援しています。更新、ゆっくりお待ちしています!) (2021年2月27日 8時) (レス) id: b4292b3d94 (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - 人形師さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 続きをお待ちいただいてありがたいです ^^) 嬉しいお言葉、ありがとうございます。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - うたプリ大好き?さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 先を楽しみにして頂いて嬉しいです(*^^*) 作者かなりマイペースなもので…(^^; 気長にお待ちいただけると幸いです。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2021年1月25日 4時) (レス) id: 0a38f0e1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロワッサン | 作成日時:2020年11月19日 21時