悠仁ノ幼馴染【呪術廻戦】

5-2　釘崎side ページ39

(クソクソクソ――クソ!!)

　歯ぎしりが鳴り止まない程の屈辱感が、体全体に行き渡る。

(こんな呪い、全然大したことないのに!! 四級！ せいぜい三級の下の下でしょ!?)

　楽しげに、しかし、妙な事をしでかさないように、呪いの視線は私を見張っていた。 吹けば簡単に崩れる程の力しかない事を、奴は自覚している。 その上でこの行動だ。 これまで相手にしてきた呪いとのレベルが違うことに、今更実感させられた。

　涙で顔をぐちゃぐちゃにしている男の子は、嗚咽を漏らしながら恐怖の中に居る。

　金槌を握る手に力が加わり、焦燥感だけが、私の思考を支配した。 目に見えて分かる所持品を手放し、両手を上げる。

「丸腰よ、その子を逃がして」

　ニタニタと嬉しそうに、愉快だとでも言いたげに笑う呪い。

(私の馬鹿!!! ほら、逃がしてくんねぇじゃん!!)

　死ぬつもりもないし、死ぬ準備なんてものは端からできていない。 けれど――

「……最後に、沙織ちゃんに会いたかったな……」

　バゴッと、呪いの背後から音がして、顔を上げる。

「アレ？ 外した？」

　音の正体は、一つの拳だった。

「――すぐ左」
「りょーかい」

　聞き覚えのある二つの声に、固まった体がピクリと動く。

　壁をものともせずに壊された先には、煙と共に虎杖が現た。 直ぐに呪いは人質を盾に体制を立て直そうとしたが、虎杖の方が一枚上手だった。 腕は切り落とされ、人質の確保が出来たことに心底ホッとした。

　しかし、呪いは斬られた腕を抑えて壁へとさっさと逃げ込んで行く。

「逃げるぞ!!」
「逃がすか!! 虎杖!! その腕よこせ!!」

　虎杖の咄嗟の声に反射するように言い放つ。 驚きはしつつも腕を投げられ、人形を重ねる。 急いで拾い上げた金槌と釘を手にし、呪力を込める。 「藁人形？」「陰湿!!」なんて声は知ったこっちゃない。

「芻霊呪法(すうれいじゅほう)、――『共鳴り』」

　勢いよく打ちつかれた腕だったモノは、黒い蒸気を発して消えてゆく。 一息「勝った」と呼吸を落ち着かせながら言葉を溢すと、ふわっと優しい香りが鼻をかすめた。

「無事で良かった……」

　私を案じるAの声が、耳に届いた。

　そこにあるだけで、水面の辺を歩く、妖精か何かなのかと疑いたくなるほどの空気を、一瞬で肌に感じさせる彼女を、憧れてしまった。 きっとこれは、必然だったんだ、と、思う。

(――いつか私も、貴方と隣に)

5-3→←第5話　始まり　釘崎side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す