2-7 ページ18
「お父さん……私、謝らなければいけないことがあるの」
『……なんだ?』
「あの、」
言葉が、出ない。 伝えたいのに、伝えなきゃいけないのに、口がはくはくと動くだけで、声を発する事ができない。
『……何かあったんだろう? どうした』
(お父さん……)
「おや、不幸な、娘で……ごめんなさい。 私……わたし……」
(――もう、お父さんに会えないのかもしれない)
分かっていた、分かっていたのに、涙がとめどなく溢れてくる。 悠仁がどんな状況かも、私が抗いようのない歯車に押し流されてしまっても、それを伝えることはできない事に、申し訳なさで一杯だった。
(――なんて親不孝な娘なんだろう)
母が先立ち、生計を立て直すのに必死で、責任感のある人だったから、会社では重要されていた。
悲しむ暇もなく育児に追い込まれ、疲労しても傍に居てくれた人はもういない。
私と姉の接し方が分からず、お婆ちゃんに協力してもらって少し安心して、毎月十分なくらいのお金と、一週間に1日だけの休日に、『おはよう』と『おやすみなさい』を送ってくれる。
何ヵ月振りに帰宅したときには「やっと休める」と、私の手料理を食べて溢すんだ。
その時の、少し口元を緩めた顔は酷く安心していた。
『A、どうした、何も心配いらないから、言ってみな』
「さびっ……しいよ、お父さん。 怖いよ、お父さん。 ……けど、行かないと私、もっと怖い!」
口数が少ないので、姉には誤解されやすかったが、こんな時だけ頑張らなくていいんだよ。 と思わず言いたくなる。
「お父さん、わたし……帰ってこないかもしれない。 あの家に……それでも、それでも」
『――独り立ちは、そう怖がることじゃない』
「え?」
『傍に居てやれない私が、偉そうな事は言ってあげられない。 寂しい気持ちを消してあげられない。 だが私は――Aを誇らしく思う』
ひゅっと息を飲んで、震える指先がスマホを持つ手を強める。
『行ってらっしゃい。 私と母さんの自慢の娘、Aちゃん』
ぷつっと、電話の切れる音がした。 最後の方は、お父さんの声なのか、お母さんの声なのか分からないくらい暖かすぎる二人の愛情に、ぽろぽろと、壊れた蛇口の様に涙が零れ落ちていった。
「A……?」
涙の止まらない私の前に、光が差し込んでいた。 しかしそれは、顔を上げると同時に影になる。
(あったかいな)
悠仁は何も言わず、優しく、優しく私を抱きしめていた。
1048人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロワッサン(プロフ) - 猫助さん» たいっへん長らくお待たせいたしました(-_-;) コメントありがとうございます。 最新話更新いたしましたのでぐっすり眠れますね!! (2021年4月28日 3時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
猫助(プロフ) - 先が気になって気になって、夜しか眠れません…作者様、続きを…続きを…!(密かに応援しています。更新、ゆっくりお待ちしています!) (2021年2月27日 8時) (レス) id: b4292b3d94 (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - 人形師さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 続きをお待ちいただいてありがたいです ^^) 嬉しいお言葉、ありがとうございます。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - うたプリ大好き?さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 先を楽しみにして頂いて嬉しいです(*^^*) 作者かなりマイペースなもので…(^^; 気長にお待ちいただけると幸いです。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2021年1月25日 4時) (レス) id: 0a38f0e1cb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:クロワッサン | 作成日時:2020年11月19日 21時