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シングルベッドが、人の重みに音を立てた。
就寝準備を終わらせ、悠仁の部屋にて、寝巻き姿で腰を掛けている。 悠仁はあの時の真剣な声色から何かを感じ取ったのか、話題には一切触れずに実地試験も、親睦会も終え、私の隣で仰向けになって漫画雑誌を読んでいる。 紙が擦れ、時計の針が傾く音が、耳に心地よく入り込む。
「明日はどんな授業すんのかな」
「呪霊について、基礎から教えられるかもね」
「楽しみだな」
「うん……」
チク、タク、チク、タク―― と、静かに響きわたる部屋の中。 しかし、ドクドクと耳を占領する私の体は、周りの音を遠ざけてしまう。
「……呪いの、こと」
躊躇う掠れた声を発し、薄手のガーゼ生地でできた服の端をきゅっと掴む。 悠仁が体を起こし、パタリと厚みのある漫画雑誌を閉じた事を確認して、一度、深呼吸をした。
上半身を悠仁の方に向け、私と悠仁の視線が、絡み合う。
「宿儺のことか?」
「それも、そうだけど……違う。 もっと、根本的なこと」
「根本……?」
訝しげに返してくる悠仁の言葉に、上から降り注ぐ照明の灯りが、私の顔から姿を消す。
「悠仁は、わたしが……」
(私が――)
「呪いを見れなくても、祓えなくても、ここに居ていいって、……そう思える?」
悠仁の瞳が、大きく見開いた。 何を、何処から聞けばいいのかさっぱり浮かばなそうな表情をしていた為、詳しくゆっくりと説明することにした。
「全く、見えないわけじゃないの。 右目だけ見える。 けど、何故か黒い靄なの。 学長と面接した時の……縫いぐるみを見て、分かった」
無理やり景気をつけ、力を込めようとするが、何とも不格好な声色になっていることに、自分でも理解していた。
悠仁の顔が、耐えられない物でも見ているのかと疑う程、眉間を寄せる。
「祓えないのも、言わなきゃいけない……よね」
「いい、聞かねえよ。 俺が祓ってやる。 Aは、俺が守るって約束したろ」
見上げると、真剣で、しかし、扱い慣れているはずなのに、それは脆く、儚く、壊れゆくガラス細工を、必死に繋ぎ止める様な眼差しが、悠仁の想いを写しているようだ。
優しく抱き寄せるように、後頭部へと回された手の温もりを感じる。
(――いい、匂いがした、あの匂いは)
宿儺を受肉したあの日、あの時の記憶を探ろうとすると、ぐねぐねと断片が歪む。再び頭痛が私を襲いに来た、その時だった――
「――何だ、"人間"だったのか、ソレは」
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クロワッサン(プロフ) - 猫助さん» たいっへん長らくお待たせいたしました(-_-;) コメントありがとうございます。 最新話更新いたしましたのでぐっすり眠れますね!! (2021年4月28日 3時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
猫助(プロフ) - 先が気になって気になって、夜しか眠れません…作者様、続きを…続きを…!(密かに応援しています。更新、ゆっくりお待ちしています!) (2021年2月27日 8時) (レス) id: b4292b3d94 (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - 人形師さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 続きをお待ちいただいてありがたいです ^^) 嬉しいお言葉、ありがとうございます。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - うたプリ大好き?さん» コメント遅ればせながらありがとうございます。 先を楽しみにして頂いて嬉しいです(*^^*) 作者かなりマイペースなもので…(^^; 気長にお待ちいただけると幸いです。 (2021年1月27日 15時) (レス) id: 9c7083b36c (このIDを非表示/違反報告)
人形師(プロフ) - 凄く面白いです!続きが気になります。応援してます!! (2021年1月25日 4時) (レス) id: 0a38f0e1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロワッサン | 作成日時:2020年11月19日 21時