順応 ページ10
あれから2週間が経過し、私が眠っていた間を含めるともう3週間にもなる。
相変わらず声は出ないが、体はなんとか起こせるようになってきたため硝子さんに頂いた本を繰り返し読んで過ごしていた。
あの日たくさん人が死んだはずだったが、ニュースとして世界に晒されることはなかった。
ただ、私の故郷の町は現在封鎖され、一般民の立ち入りが禁止となっている。
私の思い出はあそこに封印されたのだ。
体が動けるようになるに伴って、少し部屋の外へ出てみたりすることが許可された。
なんとなくではあるが、ここが以前五条さんが言っていた「人間じゃないものに対するプロ」のための施設であることを理解してきている。
えらく広い場所のようで、全貌を知ることはできないが、自然の豊かな環境や、空気が澄んでいることを考えたらどこかの田舎なのかな、という見解に至った。
私が眠っている時から、五条さんは頻繁に部屋に訪れていてくれていたらしく、今でも毎日顔を見せにきてくれる。
硝子さんも毎日決まった時間にきてくれるが、どちらかというと体調のことなど業務的な会話が多いため、いろんな話をしてくれる五条さんとの時間は私にとって特別なものになっていた。
「Aちゃーん!ねぇ、甘いもの好き?今日僕の生徒たちと東京観光に行ってきたんだけど、いっぱい買ってきたから一緒に食べなーい?」
ノックもせずに入ってきた五条さんは、両手にいっぱいの袋を持ち、私を捲し立てた。
一方的に話してくれる五条さんといると、話せない私でも沈黙が生まれないから楽だった。
「これが、タピオカでしょー?
これはクレープと、マリトッツォってやつー。知ってる?今若い女の子の間で流行ってるんだって。僕トレンドに乗っちゃってきたよー。」
五条さんは1人で話し、1人で笑う。
そんな姿を見て、私も自然と笑顔になる。
あの一件で、私自身すごく変わったなぁと思う。
ショックのせいか、ただ話せないせいなのか、人と関わるのに対してすごく消極的になっていた。
しかし、五条さんは私の言いたいことを理解してくれてるように感じて、妙な安心感があった。
どかっとベッドに座ってきた五条さんは、布団を被った私の足の上に袋を広げ、たくさんのスイーツを見せてくれた。
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ゆうき(プロフ) - 時さん» すごく嬉しいです。ありがとうございます。時さんも更新頑張ってください。いつでもコメント欄いらっしゃってくださいね。 (2021年8月6日 11時) (レス) id: 67d009fa41 (このIDを非表示/違反報告)
時(プロフ) - コメント失礼します!最初で一気に惹かれました!続きを楽しみにしています!無理せず更新頑張ってくださいね! (2021年8月6日 11時) (レス) id: 65803b71a1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - ラリマさん» コメントありがとうございます。凄く嬉しいです。優しいお言葉感謝します。ラリマさんも体調にはくれぐれもお気をつけくださいね。作品の方にもお邪魔させていただきます(p_-) (2021年8月6日 0時) (レス) id: 67d009fa41 (このIDを非表示/違反報告)
ラリマ(プロフ) - コメント失礼します! 続きがすごく楽しみです!これからも体調に気をつけて更新頑張ってください!!! (2021年8月6日 0時) (レス) id: 3c461fe813 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆうき | 作成日時:2021年8月3日 22時