追憶の住人3 ページ20
三度目に訪れたこの場所。
相変わらず鏡のように空を忠実に映す水面、地平線も曖昧な世界。
ただ幻想的なその世界に、私は独りで声を張り上げて叫んだ。
『何だよ！結局、私はモノ扱いかよッ！ふざけんな！！』
焦げ付く憎しみに怒鳴るが、私の声が反響して消えていくだけ。
視界に入った自分の顔は憎しみに歪んでいて、私は踏みつけて見ないフリをした。
『私は生きてんだよ！！都合の良い人形でも、消耗品でもねぇんだよクソがッ！！』
私は踞り、膝を抱えて手の甲に爪を立てる。
…逢いたい、仲間に。
逢いたいよ、降谷さんに。
気が付くと誰かに頭を撫でられていた。
「そうだな。君は生きてる人間だ。」
労る優しい声に顔を上げると、ガタイの良い男の人が私を慈愛の眼差しで見つめていた。
『……っ伊達航刑事？』
伊「そうだ。降谷が世話になってるな。」
私は首を横に振る。
『わた、私は何もしてません。いつも、お世話になってるのは…っ私です。』
しゃくり上げて言うと、伊達さんはポンポン頭を撫でて苦笑する。
伊「律儀だなぁ。芯が強いし、礼儀も正しい。」
『…私は、芯なんてありません。』
もしも芯が強いなら、簡単に泣いたりしない。
私は弱い人間なんだろう。
だから、大切なトワ姉も守れなかった。
私が巻き込んだから、トワ姉はアイツらに捕まったんだ。
私が弱いから何も守れはしない。
伊「そうか？けど、あの女を殴らなかったろ？」
『それは、師匠と約束したから…。』
あの日、私は誓った。
むやみに人を傷付けず、誰かを守れる“ヒーロー”になると。
すると、伊達さんは溢れた私の涙を拭った。
伊「咄嗟でもソレを守るのは、芯が強い証拠だ。君は自分を誇れ。」
伊達さんの言葉に、私の涙腺は決壊した。
声を上げて泣く私の頭を撫で、伊達さんはずっと側に居続けてくれる。
あぁ、何で皆優しいのかなぁ………。
確実に昔より涙脆くなった目を擦り、私は心の中で何度も“ありがとうございます”と呟いた。
伊達さんは自身が消えるまで、ずっと私を慰めてくれた。
そして、私の意識は闇に溶けていった。
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作者名：四條暁 | 作成日時：2020年7月19日 0時
