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息は、出来る。

けれど、それ以外の動きが金縛りのように一切出来ない。指一本動かすことも出来ない状態に、悲鳴も出せない恐怖に襲われる。

過呼吸になりそうな中、未だこちらを向かない男の後ろ姿を見る。


嫌だ、何、なんで動かないの、私の身体。


脳と身体が上手く連動しなくて気持ち悪くなりそうだ。


パニックになりそうな脳内。
じわり、と涙が出そうになる。



そんな時、男が読んでいた本をパタリと閉じた。




「目が覚めたのなら、ひと声かければよかったのに」




こちらをまだ向かないけれど、間違いなく声の持ち主は目の前に後ろ姿だけを見せる男だ。
低い声が、私の耳を刺激する。




「あぁ、今は身体が動かせないから声すら出せないのか。それは失敬」




そう言ったと共に、男は椅子から立ち上がりこちらを向いた。

ようやく見えた男の顔に、息をするのも忘れてしまう。

宝石のように澄んだ翡翠の瞳に、スッと通った鼻筋。
僅かに歪む唇がやけに赤く見えて。

今までの10何年の人生の中で見たことがないほどの整った美貌を目の当たりにして、本当にこんな綺麗な人が存在するのか、と不謹慎なことも思ってしまう。
この世のものではないような気がする、と妖異な空気を纏う姿を見て頭の端で思ったりもした。




「俺はうらた。初めまして、Aちゃん」




彼の口から発されたのは間違いなく私の名前。

ますます男の正体がわからなくて、頭が混乱する。




「俺の名前、呼んでみてよ」




私の身体が動かないことわかっているだろうに。どうしてそんな事言うのだろう。

そんな事を頭の中で考えた時だった。
私の口が勝手に、開いた。


勿論、私は自分の意志で口を開けたわけではない。
それなのに勝手に開く口に、恐怖からか涙が一粒零れる。




「うらた様、」




自分の口から発せられた声は、他の誰かの声のようにも感じた。

いやだいやだ、こんな奴の名前言いたくない。
それなのに私の口は勝手に形を作って、彼の名を呼ばせるのだ。

………誰かに操られているような、そんな感覚。




「ん……、いい子」




うらたが満足げに口を歪ませて私の頭をゆるりと撫でると、ふっと力が全て抜けた。

ペタンと力の抜けた私の身体。




「あ……」




ようやく動かせるようになった身体は何故か重く感じる。
起き上がらせて地べたに座ると、彼は私に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

*→←【うらたぬき】耽溺/菊香



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作者名:*作者一同* x他2人 | 作者ホームページ:***  
作成日時:2019年8月18日 18時

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