＊ ページ3
『センパイもカレシさんの気持ち考えてあげてくださいね』
相馬くんの発言がリピートされる。確かに、相馬くんの言う通りなんだよね……
コツ、コツ、と静寂に包まれた夜に私の靴を鳴らす音だけが響く。そうしているとあっという間に部屋の前まで来てしまった。
……いつも帰ってるはずなのに、緊張している。ドアの前で足が震えている。
意を決して鍵穴に鍵を嵌めてドアを開けた。
「……ただいま」
しかし返事は返ってこない。おかしいな。いつもだったら私がドア開けたら必ず目の前に立ってるのに。
いろちゃんもぽてちゃんも居ない。多分寝てるのかな。
★☆★☆★
寝室に行っても、リビングに行っても彼はいなかった(いろちゃんとぽてちゃんは案の定猫用ベッドで寝ていた)。
(……あ、)
あの部屋がまだだった。小走りで走り、防音室のドアを開ける。お目当ての彼はそこに居た。
「………」
すー、すー、と寝息を立て、机に突っ伏して寝ている。パソコン画面には曲の歌詞やら音符やらで埋めつくされていた。
床には必要であろう資料や資格の書類などがいっぱい散らばっていた。無くしてわーわー喚いても知らんぞ。
(それにしても目の下のクマが酷い……)
あれだけ寝ろって言ってるのに………
「まふくん」
「……」
「おーい、そろそろおき、」
言い切る前にガバッと起き上がるまふくん。そしてまた、ぎゅうっと抱きしめられた。
「……」
「あのー、」
「…なに」
「まふまふサン？離していただいても………」
「嫌」
知ってた。知ってたけど1パーセントの希望を託して言ったんだよ。その希望を叶えてやってもいいんじゃないかなまふまふサン。
「……が、する」
「え？」
「男のニオイがする」
超不機嫌のまふくんと向かい合わせになっているのでめちゃくちゃ怖い。なんで目ぇ血走ってるの。
「また喋ったの？」
プクーと頬を膨らませた。そしてまた抱きしめる。
「ごめん、でも、……」
「分かってる。会社だからっていうのは分かってる……」
──まふくんは、いつもこんな思いで作詞や作曲しているのだろうか。私が仕事で上手くいった時も、さっきのように相馬くんとの付き合いで飲んでいる時も。
いつもいつも、我慢させていたのだろうか。
「……ごめんね、まふくん」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 138人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
