△禁煙 ページ7
仕事を終えたある日、いつものように煙草に火をつけようとしていたらエーミールさんに腕を掴まれて止められてしまった。
「Aさん、これをどうぞ」
「これって…キャンディ？」
「はい。口寂しいのなら代わりにこれを食べていてください。煙草の臭いが少しでも私の服につくのは嫌なので。…それと過度な喫煙は体に悪いですよ」
この人が珍しくお金以外のものを渡してきたかと思えば、やはりそういう理由だった。そういえば昨日、煙草吸う理由を聞かれて「口寂しいから」って答えたっけ。
「禁煙なら任せてください。過去に何度も成功してるので」
「はぁ…それを失敗と言うんですよ」
こうして私の禁煙生活が唐突かつ強制的に始まったのであった。
その日はエーミールさんの家で大学の授業の準備を手伝わされていた。私の仕事は護衛のはずなのに、どうしてこんな雑用まで手伝わされるのかと時々疑問に思ってしまう。まあ、ボーナスが出るからいいのだけれど。
私は仕事をしつつも、意外にも早く無くなってしまった最後のキャンディを舌の上で転がしていた。キャンディの減り具合がこんなにも早いのは、ゾムが「よこせ」とねだってくるのも原因の一つだった。
「…エーミールさん、キャンディなくなっちゃいました」
「え？随分と早いですね。それなら私がこの作業を終えたらまた買ってあげますよ」
エーミールさんはそう言って再びパソコン作業に戻った。そんな彼を暫く見つめながら、一ついい事を思いつく。
私は立ち上がってエーミールさんに近づいた。
「もうそちらは終わったのですか？早いですね」
気配に気がついた彼はそう言いながら私の方を振り向く。
…よし、今だ。
「なっ……！？」
唇と唇が触れ合う。そしてゆっくりと彼の口内に舌を滑り込ませる。慌てて私を引き剥がそうとする手を振り払い、後頭部を固定して逃れられないようにした。
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