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逃げ惑う小物共。運良くゾムさんのワイヤーから逃れた彼らを私自ら切り捨てる。最初こそ強気だったというのに、泣きながら逃げ惑う彼らのなんと哀れなことか。
「案外呆気ないですね。私の予定より17分も早いですよ」
「っひ、」
「では、さようなら」
日本という国はアメリカとは比べ物にならないほど平和だ。裏社会と言っても程度は知れている。Aさんは危ない仕事と言うけれど、こんなもの危ないの範囲に入りはしない。入念に準備を進め、ありとあらゆる可能性に対応し、それでも万が一に備え脱出ルートも確保済み。ミスのしょうがないほど完璧なプラン。
思わず笑みを零すとゾムさんが顔を顰めた。
「敵が弱いのは確かだけど、早く終わったのは教授が張り切ってっからだろ」
「ふふ、今日は早く帰りたいんです。有象無象に構っている暇はありません」
こんなにも小さなリスクで、Aさんはその瞳を不安げに揺らし、小さな願いを飲み込むのだ。そして、私が帰ってくると安心しきった顔で笑うのだ。彼女には悪いが、その顔はこちらの加虐心を満たすのに十分で。
「やけに機嫌いいじゃねえか」
「ええ、そうかもしれません」
「どうせ奥さんだろ」
「ゾムさん、Aさんはまだ奥さんではありませんよ」
ガスマスクの向こうがまた曇る。ゾムさんは張り巡らせたワイヤーを緩め、めんどくせぇ……と呟いた。
さぁ、早く愛しいAさんの待つ家へ帰らなくては。きっと今頃私の要求通り和食を揃えて不安と戦っていることでしょう。帰ったらAさんを抱きしめて、安心しきったその顔にキスを落として、恥ずかしがる彼女からお帰りのキスを貰うのだ。それを考えるだけで無限に思える活力が湧く。きっとその間なら、私は誰にも負けはしない。
私の身を案じ、帰りを待つ貴女がいるから。私は足を洗わずに貴女の心を乱し続けている。そうしてちゃっかり報酬だけは頂いていく。
つまり私は、そういう卑怯な男なのです。
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