【科em】フロンティアにて蝶は舞う Ⅲ【合作短編集】 (ページ13)

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家の前に辿り着き、車を降りるとエーミールさんが私も降りるように告げた。まさかまた家に泊まることになるのだろうか。

「こうなってしまったのは管理を怠った私の責任ですが、貴方のせいでもあります」
「何故ですか…！」
「ご存じですか？日頃から規則正しい生活を送っていたカントが一度だけ散歩の時間に遅れてしまったのは、読書に集中していたから…つまり目の前にある一つのものに夢中になっていたかららしいです」
「それと何の関係が…」
「カントのように規則正しく日常を送っていた私が規則を乱してしまったのは、彼と同様に夢中になるものがあったからなんですよ」

エーミールさんは微笑みながら私の腰に手を回してきた。そして耳元でこう囁かれる。

「私が夢中になったのは貴女です」
「エーミール、さん…」
「…なんて、その時だけではなく、私はいつでもAさんに夢中なんですけどね」

彼の瞳に映る自分の姿が大きくなる。私は目をそっと閉じて彼の口づけを受け入れた。

「…気が変わりました。もう少し貴方と一緒に居たいんです。今夜も泊まっていただけますか？」
「ですが明日もまた早いんじゃ…」
「私は同じ失敗を繰り返しませんから、ね？」

結局その日の夜もエーミールさんの家に泊まることになった。気がついたら用意されていた私専用の歯ブラシや寝巻きを使い、眠る準備をする。
もしかすると、毎日私と共に眠って朝を迎えることもいずれ彼の規則になるのかもしれない。そんな期待を胸に抱きながらその日は何事もなく眠りについた。