７話・人智を超えた能力 ページ7
東方の姿が脳裏に浮かんだ。
それと同時にあの時に起こった不思議な出来事が蘇る。手首を切ったはずなのに彼が掴んだ後には傷が治っていたあの光景。あれは一体…
手首を改めて見るとやはり傷跡ひとつない。
世間でいう過ちを犯した傷が。Aはふと屋上の出口を見た。今日は来ない。あの時はタイミングが悪かっただけで…
ゴクリと唾を飲み込んだ。手首に刃先を当てると冷たい感触がする。そのまま尖った刃を立てて線を描くとプクリと血の丸みができて皮膚が破れる感触と共にしっとりと生暖かい液が外へ溢れだす。
Aの目は輝きを放ってそれを見ていた。
鮮烈な赤が解放されたそれは綺麗だ。
同時に胸に潜んでいた苦しみから解放される。背徳感などない。むしろ正しい行いだと思う自分がいる。
「ねぇ、これで…許してくれる？」
Aは血を流した手首を見ながら呟いた。自分に暴力を振るうあの子を思い浮かべて。すると、ギィーと扉が開く音。あの子が来たのかと顔を向ければ、あの子よりも現れてほしくなかった人物。
「東…かた…」
見開いては鋭い目つきをした彼は大股でこちらに歩み寄ってくる。そして、掴んでいたカッターナイフを振り払うように叩かれた。
「ーッあんた、いい加減にしろ！！！」
そして、彼に掴まれた手首は傷が塞がる感覚がして急いで振り払ったその先には鮮烈な赤は消えてしまっていた。
Aは手首を見つめている。その様子を東方はこめかみに青筋を浮かべて見下ろしていた。
「教室に行ってみてもいねぇしよぉー。屋上かもって嫌な予感がしていってみれば…あんたほんと懲りないな」
「…」
黙りこくるAに東方は「おい」と意識を向けさせるように肩を掴んだ。そのとき、目と目がかちあった。
「あなたのそれなに？私の傷、どうやって治したの」
「！」
頭に上っていた血が冷めるように東方は「あっ」と少しだけ後ろに下がった。人智を超えたその能力は非現実的だ。
先ほどの勢いはどこへやらしろどもどろになる東方を見据えてAは少しだけ口角を上げた。
「傷を治すなんてすごい。信じられない」
「…いや、これは」
「だけど、それは私には必要ない」
「は？」
能力を問い詰められるわけでもない。
ただ、淡々と喋るAは心底どうでもいいと言ったようで嫌悪感さえ露わにしていた。
「夢見が悪いからその不思議な力で傷を治そうとしても無駄。どちらにしてもあなたの知らないところで勝手にくたばるから安心してよ」
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圧倒的睡眠不足(プロフ) - 知らず知らずのうちに完結されていらっしゃる...だと...ッ！？流れから文の書き方からオチまで全部素敵すぎて引き込まれてしまいました！素敵な作品をありがとうございます！ (5月7日 17時) (
レス) @page32 id: 33f559404d (このIDを非表示/違反報告)
匿名M(プロフ) - 圧倒的睡眠不足さん» コメントありがとうございます！前作も読んでいただき、今作まで…本当に嬉しいです！めちゃ良きなストーリー展開を続けられるよう頑張ります！ (11月19日 22時) (レス) id: 0253a37101 (このIDを非表示/違反報告)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 前作ジョルノの小説も読ませていただいてました、新作もめっちゃ良き…！更新楽しみにしてます！ (11月19日 13時) (レス) @page3 id: 97d79e1a3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名M | 作成日時：2023年10月27日 10時
