２１話・切実な願い ページ21
「馬鹿じゃないの」
罵倒する言葉。だが、その言葉を発したAの表情は泣いているわけでも相手を嫌悪した顔でもない。
「馬鹿かもしれないっすね、俺も」
東方と同様に笑顔をこぼす姿がそこにあった。呆れたように、それでも嬉しそうに笑っている。その事実に驚いているのはA自身だった。
いつぶりだろうか。誰かとこうやって笑い合ったのは。信じようと思えたのは。救いの手を取ろうとしたのは。
Aはあらためて東方を見つめた。すると、相手は視線に気づいて微笑んだ。真っ青な空を背景に綺麗な笑顔を浮かべている。
「無駄に顔はいいんだね」
「はぁ！？急になんなんすか！？」
「フフッ…ありがとう。あなたのさっきの言葉嬉しかった。普通の学校生活でもう一度知り合ってみたい…そうだね。私もあなたと普通に出会ってみたかった」
「みたかったじゃない。これからそうするんだよ。何もかも解決したあとでも遅くない。そうだろ？」
「…」
「簡単じゃないことぐらい分かってるっすよ。けどよ、あんたが孤立しようとしていた時に比べれたらましだ。俺はこれからあんたを一人にさせず、協力するんだからな」
「東方くんって相手に尽くすタイプ？」
「いや？自分が正しいと思ったことをするだけだ」
「ハハッ！かっこいいね」
「〜ッ急に褒めるのはずるいっすよ！！」
Aの気持ちは穏やかだった。助けてやるとかお節介な気持ちからではなく、彼はあくまで自分の心に従って動いている。出会った当初から変わらない。
間違っていると思ったことに対して他人の問題でも首を突っ込む。悪い方向にも繋がる時だってあるが、今回はそれに救われた。
「ありがとう」
あらためてAはお礼を告げた。東方は後頭部に手をやって照れくさそうにした。
どこまでも優しく、強い心を持った人。
そんな彼に巡り会えたことは幸運だ。今までの学校生活。どん底にいた自分の中で一番強烈で、素敵な思い出となる。
「A」
彼は手をこちらに差し伸べる。これからの学校生活が大きく変わるきっかけとなるだろう。その手を取ったAは…
幸せになれる
漠然としたものだが、心の何処かでずっと願っていた切実な願い。手を引いて笑みを向ける東方の姿を見つめながらそう信じた。
「…そんな時もあったな」
だがその姿から場面は変わり、夕暮れの光が差す教室。
目の前には手を差し伸べる東方ではなく、カッターナイフを振り下ろすあの子の姿がAの目に映っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 知らず知らずのうちに完結されていらっしゃる...だと...ッ！？流れから文の書き方からオチまで全部素敵すぎて引き込まれてしまいました！素敵な作品をありがとうございます！ (5月7日 17時) (
レス) @page32 id: 33f559404d (このIDを非表示/違反報告)
匿名M(プロフ) - 圧倒的睡眠不足さん» コメントありがとうございます！前作も読んでいただき、今作まで…本当に嬉しいです！めちゃ良きなストーリー展開を続けられるよう頑張ります！ (11月19日 22時) (レス) id: 0253a37101 (このIDを非表示/違反報告)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 前作ジョルノの小説も読ませていただいてました、新作もめっちゃ良き…！更新楽しみにしてます！ (11月19日 13時) (レス) @page3 id: 97d79e1a3f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：匿名M | 作成日時：2023年10月27日 10時
