２話・こちらの気も知らないで ページ2
男子生徒が離した先には傷一つない手首。たしかにそこから真っ赤な血が流れていたというのに。
「ほら、カッター預かりますよ。渡してください」
何事もなかったようにする相手にAは先ほど見た光景が気のせいだったのではないかと疑った。だが、やはり…
「違う」
勘違いなんかじゃない。私は見た。鮮烈なあの忘れられない美しい赤を。
Aはカッターナイフを握りしめてもう一度手首に当てようとした。だが、「ストップストップ！」と焦った声と共に取り上げられ、彼の手に渡った。
「あんた、俺の話聞いてたっすか！？」
そこでやっと男子生徒の姿をまともに目に入れたAはゆっくりと目を見開き、人物の名前を口にした。
「…東方仗助？」
「俺のこと知ってるんすか？」
「知ってるも何も…」
いい意味でも悪い意味でも有名な生徒だ。今時見ない特徴的な髪型、不良たちに恐れられる強靭な体、男女ともに惹きつける日本人離れした端正な顔。そして、その両目にある輝くブルーの瞳がこちらを見下ろしている。
Aは目を逸らして東方から距離を取った。だが、咄嗟に手首を掴まれて引っ張られる。
「まだ話は終わってないっすよ。なに逃げようとしてるんすか」
「そんなつもりは…「ないなら、ちゃんと俺の目を見て話してくださいよ」
「…ッ」
そんなことを言われても私は相手の目を見て話すことが苦手だ。ましてや東方などかなりの苦手な部類に入る。
いつだって皆の中心にいる輝かしい人物なんて。
顔を俯かせて口を固く結んだ。すると、そんな自分に呆れたのか溜め息が上から降ってきた。
「いつまでも俯いて黙ってられても困るんすけど」
あからさまな態度にAは奥歯を静かに噛み締めた。
そうやって堂々と思ったことを言えて羨ましい。
きっと生まれた時から何もかも持ち合わせていて、容姿も人望も取り巻く環境さえも完璧に近いのだろう。そんなんだからこちらの気も知らないでズカズカと踏み込んで…ッ…！
追い詰められた人間の気持ちなんて分かりやしない。
心の中に取り巻く負の感情。
一度、溢れると止める方法など知らない。
「ともかく俺は…」と話をし続けようとする東方にAは顔を上げた。その表情を見た彼は大きく目を見開いた。
「触らないで」
パシリと掴まれていた手をはじいて唖然とする東方の隣を颯爽と通り過ぎて屋上を後にした＿＿＿＿
「…なんなんすか、あの人は」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 知らず知らずのうちに完結されていらっしゃる...だと...ッ！？流れから文の書き方からオチまで全部素敵すぎて引き込まれてしまいました！素敵な作品をありがとうございます！ (5月7日 17時) (
レス) @page32 id: 33f559404d (このIDを非表示/違反報告)
匿名M(プロフ) - 圧倒的睡眠不足さん» コメントありがとうございます！前作も読んでいただき、今作まで…本当に嬉しいです！めちゃ良きなストーリー展開を続けられるよう頑張ります！ (11月19日 22時) (レス) id: 0253a37101 (このIDを非表示/違反報告)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 前作ジョルノの小説も読ませていただいてました、新作もめっちゃ良き…！更新楽しみにしてます！ (11月19日 13時) (レス) @page3 id: 97d79e1a3f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：匿名M | 作成日時：2023年10月27日 10時
