１話・その世界が全てだった ページ1
キーンコーンカーンコーン。
授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響く。その時点で机に座って黒板を眺めているはずだったが、目の前に広がる光景は高いところから見下ろしている杜王町の風景。
生暖かい風が頬を撫でる。全体の景色を眺めると平和で自分がいるこの学校という場所はなんともちっぽけで狭い世界だと思える。
だが、今の自分にとってその世界が全てだった。
授業を抜け出し、優等生という皮を脱却して屋上へと向かった。そこでフェンスの外側に立って一歩踏み出せば落ちてしまう場所へ…
死にたいだなんて思う日が来ると思わなかった。
ただ、落ちたら痛いだの苦しいだの思うと気が引けて一歩下がって踏みとどまる。
ここに立つ理由はよくある話。
"典型的なイジメ"だ。いじめっ子が見える位置から飛び降りてやろうだなんて思いついたのに…
「ハハッ、やっぱり無理だ」
せっかくよじ登ったフェンスから内側へ戻ってヘタレ込む。飛び降りる勇気がない。だったら、とポケットの中に手をつっこみ取り出したのはカッターナイフ。
やることはただ一つ。
カチカチと刃をだして手首へと当てる。真っ白な傷ひとつない肌。これをすれば、後戻りできないとどこか予感がした。それでも死というものに近付く勇気が湧いたのがこの行為で。
浅い息を吐く。思い切って引いてみようかと思ったその時だった。バンッ！と体がびくつくほど大きな音と共に勢いよくドアが開いた。
そちらに目を向ければ、髪が乱れた高身長の男子生徒の姿。頭に手を当ててクシをどこへやったのだと焦っているキョロキョロした目とバチリとあった。
なんてタイミングが悪いと思った時には遅く、
「はぁ！？あんた何してるんすか！？」
彼の目には私が手首をカッターナイフで切った光景があったのだろう。あっと声に出した時には遅く、その男子生徒が入ってきた拍子に深く切ってしまった。
本当に切るつもりはなかったと言い訳する前に手首に目を向けた瞬間、離せなかった。
「…ッ」
零れ落ちる赤がこれほど綺麗だなんて。
そう思うことは異常だというのに素直に出てきた感想は間違いなく正しかった。
だが、その美しい光景を眺められたのは一瞬だった。
手首に向かって彼の手が伸びてきたかと思えば思いっきり掴まれ、同時にスッと痛みが引く感覚。
「たく…危ないじゃないすか。そんなもの手に持ってちゃあ。切る前でよかったすね」
「え？」
男子生徒が手を離した先には傷一つない手首があった。
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圧倒的睡眠不足(プロフ) - 知らず知らずのうちに完結されていらっしゃる...だと...ッ！？流れから文の書き方からオチまで全部素敵すぎて引き込まれてしまいました！素敵な作品をありがとうございます！ (5月7日 17時) (
レス) @page32 id: 33f559404d (このIDを非表示/違反報告)
匿名M(プロフ) - 圧倒的睡眠不足さん» コメントありがとうございます！前作も読んでいただき、今作まで…本当に嬉しいです！めちゃ良きなストーリー展開を続けられるよう頑張ります！ (11月19日 22時) (レス) id: 0253a37101 (このIDを非表示/違反報告)
圧倒的睡眠不足(プロフ) - 前作ジョルノの小説も読ませていただいてました、新作もめっちゃ良き…！更新楽しみにしてます！ (11月19日 13時) (レス) @page3 id: 97d79e1a3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：匿名M | 作成日時：2023年10月27日 10時
