* ページ30
・
「A!起きろA!」
杏寿郎の声にゆっくりと目を開く。
あれ、名前で呼ばれてる……?
「君が寝坊するなど珍しいな!」
大きな手が優しく私の頬を撫でた。
あぁ、これは夢だろうか?
この人は杏寿郎だ。
私の"夫"の、杏寿郎なんだ。
「朝飯の用意は千寿郎が済ませている!…何故か俺が作ると言ったら断られてしまってな!」
「……杏寿郎!」
「む!どうした!」
バッと起き上がり、彼の胸に飛び込んだ。
今までどれほどこうしたかった事か。
どれほど杏寿郎の体温を全身で感じたかったことか。
じんわりと溢れ出る涙を彼に見せぬよう、頭を杏寿郎の胸板に押し付ける。
「よもや、怖い夢でもみたのか!」
そう言いながら、私の頭をぽんぽんと撫でる杏寿郎。
そうだ、あれは悪い夢だったのかもしれない。
杏寿郎はずっと生きていて、私は刀を持つことはなくて。
師匠も、死ぬことはなかった。
………あれ、師匠って誰だっけ?
大切な人だったはずなのに、名前が、顔が、思い出せない。
「どうしたんだ?」
「…なんでもないわ」
靄のかかった男を頭から消し去って、私はニコリと笑顔を浮かべた。
すると杏寿郎は、私の手を取り立ち上がる。
「朝食を食べに行くぞ!」
「えぇ」
私もその場に立ち上がり、彼の後ろに続いて居間へと歩く。
「おい」
「え?」
途中、誰かの声が聞こえて後ろを振り返った。
男が私を見下ろしているのが見えて、思わず肩をビクリと揺らす。
「お前、こんな所で何してんだよ」
「何って……貴方こそ、人の家何をしているんですか?」
眉をひそめて逆に問返せば、男は表情を変えずに言葉を連ねた。
「忘れたのか?お前は鬼殺隊だ。雪柱だ。お前は、刀を握って戦わなければならない。煉獄杏寿郎を救うために」
「救うって、杏寿郎は生きているわよ?」
胸のざわめきを無視するようにそう答える。
本当は、心のどこかでわかっていた。
でも、認めたくなかった。
「お前は、俺の継子だ。俺の、自慢の弟子だ」
師匠が、笑う。
優しくて、どこか飄々とした笑みを浮かべる。
それは懐かしくて、切なくもあった。
「___はい」
そう頷いた瞬間、彼の手が、私の頭の上に乗った。
・
678人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
フェイタン - すーーーっごくよかったです!!(泣) ありがとうございましたーー!!!! (2019年12月7日 23時) (レス) id: 45eedb7288 (このIDを非表示/違反報告)
煉獄さんの嫁になりたい(プロフ) - どうしてくれるんですか……バスタオルがびしょ濡れなんですけど!私を脱水症状にさせる気ですか!最高でした有難うございます! (2019年11月13日 16時) (レス) id: 60ba35ccc3 (このIDを非表示/違反報告)
リズ(プロフ) - 凄く面白かったです!ありがとうございます!他作品も頑張って下さい! (2019年11月3日 19時) (レス) id: 96dd58bc45 (このIDを非表示/違反報告)
みーた(プロフ) - 眞孤さん» コメントありがとうございます!私も師匠大好きなのでとっても嬉しいです! (2019年10月29日 19時) (レス) id: 8487e33076 (このIDを非表示/違反報告)
眞孤(プロフ) - 今日見つけて一気に読んでしまいました…!とっても面白かったです!特に師匠が好きでした…オリジナルで書けるなんてすごいです!( ´艸`)とっても素敵な作品をありがとうございました! (2019年10月28日 2時) (レス) id: 38cda14dee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みーた x他1人 | 作成日時:2019年10月12日 13時