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とある人間界の話 4 ページ6

そのはずなのに。

なんでこんな悲しいんだ。
なんでこんなにも、涙が溢れるんだ。

悔しい、悲しい。
自分が望んでいる通りになっているのに、
大切な人に拒絶されて、悲しい。

『 嗚呼、今日が満月じゃなくて 』

よかった。

三日月に照らされあらわになった顔、
おとなしい子供のように静かに涙を流していた。


俺は、旦那様も奥様も守らないで、結局御二方の御子息様すら守らずそばにいてやれず、旦那様の大切なご友人を選んでしまった。

たかが人の子。でも、

旦那様の、大切な

人の子なんだ。


「Aさん?」

人の子の、声がした。

愛しい御子息様を抱き寄せ、育ててくれた、
あの、人の子の声。

水木「珍しいですね。灯火用意してないなんて」

タバコに火をつけると口に咥え煙を吸い始めた。

暗い道を微かに照らしているその明かりに手を伸ばした。

水木「あぶね、これ火だぞ」

『.…して、」

水木「ぁ?」

『殺して、くれ』

持っていたタバコがぽろっと指から滑り落ちた。
今この男はなんて言った?
今までの暗闇でもこんな自暴自棄になり、死を選択することなど一言も発した事はなかった。
それなのに今回はどうした。
少し目を離した隙にこの男は自分よりも先に死のうとしている。
地獄に来たばかりのこと、音信不通になった時のこと、全身が死人のように冷たいことも、この男は何一つ話そうとしてくれない。

反射的に、胸ぐらを掴み足を払い暗い床に押し倒した。
頸動脈に腕を押し付け、息をさせぬよう地面に押し付けた。

これじゃあこの男の言う通りに殺してしまう。
やめなければ、止めなければ。
そう思っても、腕はどんどん奥に奥に押し込まれていく。
引こうとしても引けない、ふとAの瞳を見るといつも海色の瞳は、今は赤く染まっていた。

水木「て、めぇ!」

にんまりと、嬉しそうに笑ったAを睨みつけるともっと口角を上げ始めた。

それでいい。これを望んでいたと言わんばかりに。

このままでは本当にこの妖怪を殺してしまう。そうすれば俺も獄卒から地獄の罪を償うものへとなってしまう。

水木「ご、かんお…、
五官王さま、五官王様っ!!」


カンッ、と何かが地面に当たる音が聞こえ音のする方に向くとそこにいたのは閻魔大王だった。
あの日挨拶行った以来で、初めて会った時のあの恐怖は、いつになっても消えることなく健在していた。

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作者名:わーい | 作成日時:2023年12月29日 7時

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