眠り姫は柄じゃない ページ1
「Aさん」
さらさらと揺れる白いカーテンと、呼吸に合わせて小さく上下する白い布団。
迅はそこに横たわる女性を見つめ、人差し指で優しく頬をなぞった。
「Aさん」
もう一度、名前を呼ぶ。
日の光が届くこの部屋に彼女が移ったのは、もうずいぶん前のことだ。迅と小南で林藤支部長に提案したのだ。もしかしたら彼女は朝に弱くて、日の光を浴びなきゃ起きられないのではないかと。
もちろん、二人ともそうでないことはわかっていた。しかし林藤は二つ返事で了承した。
「Aさん、おれ十九歳になったよ。来年でAさんに追いついちゃうよ」
彼女の身体は、この状態になったその日から成長していない。成長というか、老化か。彼女の身体は、たった一つの細胞すらも老いていない。
初めて会ったときはあんなに大きく見えた彼女が、今は頼りないほどに小さい。もともと小柄なひとだったが、今は空気中に溶けてしまわないかという妙な不安がある。
迅はとっくに彼女よりも背が高くなっていた。
「小南がさ、相変わらず騙されやすいんだ。新入りのとりまるってヤツ、小南のことめっちゃ騙すから、見てほしいな」
彼女にとって見れば、今いるボーダー隊員のほとんどが新入りである。彼女よりも先にボーダーだったのは、それこそ上層部くらいなものだ。
もう六年も経っている。彼女が、深い眠りについてから。
「レイジさんが、たまに夕食を一人分多く作るんだ。ただの間違いだろうけど、Aさんが食べてやってよ」
迅、小南、木崎。この三人は、昔から彼女にかわいがられ、目をかけられ、手厚く育てられてきた三人だ。迅はその中でも格別かわいがられてきたと自負しているが、小南も同様に主張しているため、そこは誰も触れていない。
彼女は、現在のボーダー隊員は、その三人しか知らない。
「おれの
迅がまた、するりと彼女の頬を撫でる。ひんやりとした触感が指に伝わった。
彼女が死にかけ、そして同時にこの状態になってから、いろいろなことが変わった。まず、ボーダーは巨大な組織になった。組織の目的も変わった。
彼女が目を覚ましたら驚いてしまうな。でもそれはしかたがない。早く起きない彼女が悪いのだ。
「Aさん」
迅は、そっとその額に口付けた。
「また来るよ」
おみくじ
おみくじ結果は「末凶」でした！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 334人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ペネロッペ(プロフ) - 神作品だ…神でしかない……応援させていただきます！！！ (2022年9月24日 9時) (
レス) id: 6ccf1f8e55 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 月さん» はい、頑張ります！ありがとうございます。 (2022年9月5日 8時) (レス) id: 2e7389805a (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - しらないさん» コメントありがとうございます。お待たせしてしまい申し訳ありません。今後も頑張っていきますのでお待ちいただけると嬉しいです！ (2022年9月5日 8時) (レス) id: 2e7389805a (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - フラッペ??さん» そこまで言っていただけて光栄の極みです……。ありがとうございます✨ (2022年9月5日 8時) (レス) id: 2e7389805a (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 雲雀さん» ありがとうございます！ゆっくりにはなりますが更新しますのでよろしくお願いします。 (2022年9月5日 8時) (レス) id: 2e7389805a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ノア | 作成日時：2021年9月20日 15時
