百四十五歩 ページ4
甘やかし過ぎ、って言うのとは違うのかもしれないけど、有難みをもう少しガッツリと感じてもらってもいいんじゃないか。
否、カリム君はちゃんとわかってるか。
｢お互いにだけどな、それは｣
｢俺もラギー君に言われたんだわ｣
｢あいつもだろう？｣
｢確かに、ラギー君も有り難がられていいよね｣
｢あいつ、何で副寮長じゃないんだろうな｣
｢柄じゃないとかそんなんじゃないの？それか指名忘れ｣
｢…俺は後者な気がする｣
うん、ジャミル君に言われると俺もそう思えてきたわ。
そこから他の副寮長の話になって、ダラダラとどうでもいい話をしていれば、カリム君と監督生が談話室に入ってきた。
ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーを淹れてあげると、冷えた身体が十分に温まるまで下らない話をして、それから皆部屋に戻った。
俺はカップを洗って、最後にもう一度明日の朝食と弁当の確認をして、部屋に戻った。
昨日より今日はぐっすりと眠れたから、よかった。
合宿に入ってから時々聞こえてくるヴィル先輩の言葉。
ﾞ鏡よ鏡ﾞと問うその声の硬さに彼らしくないと思った。
その後に続く機械的な音声、それは決してヴィル先輩の名前を言わない。
告げられるのは、芸能界にあまり興味のない俺でも知っている今をときめく人気俳優の名前。
先輩が時々口にする、あの名前。
まるで正反対のタイプだけど、それでも意識せずにはいられない相手なのだろう。
RSAの生徒でもあるとか…
｢同世代の俳優でライバル校の生徒…まぁ意識するか｣
レオナ先輩とマレウス様みたいなもん…違うか、違うな。
身近な人に例えてみようと思ったがどっちも世界が違い過ぎた。
動画を見ていると、爽やかな少年の甘い笑みが流れてきた。
あぁ、これがあの。
何時もならその程度の感想で直ぐに飛ばしてしまう広告も、先輩のあの声を聞いてから何となく気になってしまう。
確かに綺麗な顔で、好感を持てる愛らしい笑みだ。
黒檀のように艶やかな黒髪も雪のように白い肌も、林檎のように赤い頬も唇も、虜になる人が多いのも頷ける。
｢…うちではなかなか見ないタイプの美少年だなぁ｣
｢確かに、エペルともちょっと違うよね｣
｢俺はエペル君の事をもう可愛いと思えないよ…てか、エース君どうしたの？食い物は与えるなって言われてるからやらないよ？｣
｢違ぇし、俺もそれは諦めました！｣
ヴィル先輩って意外とゴリラだよなーってお前…命知らずか？
頭握り潰されても知らんぞ。
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作者名：きない | 作成日時：2021年1月13日 18時
