百五十歩 ページ22
デュース君がイグニハイド寮に乗り込んだって、その時何も知らなかった俺は本当に驚いた。
マジカルホイールを借りに行ったとは言え、イグニハイド生からしたら陽キャ筆頭のハーツラビュル生が来たら間違いなくビビる。
恐怖通り越して恐怖…つまり恐怖じゃん。
何より、マジカルホイールを乗りこなすデュース君…やっぱりアイツ優等生じゃねぇよ。
「イグニハイドも大変でしたね」
「いやもう本当、いきなり何?みたいな…ただでさえハーツラビュルは関わりたくないのに向こうから乗り込んできたとか寮生息絶える寸前だったからね…その場にいなくて良かったー」
「寮長の言葉とは思えん…にしても、今期最大の問題児の一人でしかも今話題沸騰のVDC選抜メンバーのイグニハイド襲撃マジカルホイール強奪事件とか」
「過剰表記だけどこっちの精神的には正しくて笑えないっすわ…はぁ、あんなのメンバーに選ぶとかヴィル氏の審美眼疑うわー」
そこはまぁ、それと言うか…ルーク先輩も一枚噛んでそうなんですけどね。
イデア先輩が珍しく饒舌に語ってくれた事を聞いて俺は笑うしかなかった。
俺も先輩も会計を済ませて、購買から出た所で何時ものようにチョコバーを差し出そうとすると、その前にイデア先輩の白くて長い指が何かを摘んだ形で俺の目の前に出てきた。
綺麗な指してんなぁ、と思いながらその摘んでる物を見れば、イデア先輩のよく買ってるスナック菓子。
手の向こう、イデア先輩の顔を見れば、バツの悪そうな、恥ずかしそうな感じで。
「あ、ほら何時も貰ってばっかでしょ?たまには…せ、拙者の今イチオシ…でござる」
「いいんですか?有難うございます」
両手で受け取ってマジマジ見ると、チーズ味のスナックだった。
「俺、チーズ好きです」
「そ、そう?なら気に入ると思う」
ちょっと恥ずかしそうに、そして嬉しそうに長い指をイジイジしてる先輩、笑顔は不気味だが可愛すぎんか。
「有難うございます、じゃあこれは何時ものって事で」
「いや、貰ったら意味が無いって言うか…」
「交換も楽しいでしょう?あ、チョコバーじゃない方がいいです?」
ガサガサと袋を漁り他のものを出そうとした俺を先輩は慌てて止めた。
「チョコバーも美味しいから好きだけど…糖分補給にいいし」
「そうですか?じゃあ糖分補給にどうぞ、俺も糖分補給に良いなってつい買っちゃうんですよね」
「…A氏も十分陽キャですぞ」
呆れた顔をするイデア先輩にとぼけながら、購買の前で別れた。
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作者名:きない | 作成日時:2021年1月13日 18時