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「『かんぱ〜〜〜い。』」


なるほど。たしかに和食がメインで個室で、落ち着いていて良い雰囲気の店だ。
なんとなく、薮が好きそうな店だな。と思って、そんな些細なことにも薮がでてくる自分に舌打ちしたくなる。



『ここね、宏太が教えてくれたんだ〜〜』

目の前でニコニコと知念が言う。


「へぇ。最近よくご飯行ってるもんな。」

いつも通り答えれていただろうか。
ただのメンバー間の温度で話せていただろうか。
自分の感情を抑えきれなくなりそうで、怖くなる。
なんの関係もない、知念にでさえ、この行き場のない黒い感情をぶつけてしまいそうになる。


そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、知念が箸を止める。





『ねぇ、いのちゃん。無理してない?』




「たしかにな〜最近ちょっと仕事が立て込んでて可愛い可愛いちねんちゃんを補給できてなかったからな〜〜無理してるかも。」


いつも通りを装ってヘラヘラと答える。
知念を苛立たせてしまっただろうか。
こういうはぐらかし方好きじゃないもんな、こいつ。


少し申し訳なくなって、知念の方を見る。
すると、知念は思ったよりも真剣な顔でこちらを見ていた。


『ねぇ、いのちゃん。
僕は誰からも何も聞いていないから、本当のことなんて何も分からないんだ。
でもね、これだけは本当のこと。
いのちゃん。
いのちゃんには幸せになってほしいんだ。
誰かの為に我慢しなくていいんだよ。
自分の為に生きていいんだよ。
いのちゃんを大切にしてくれない人のために、頑張らなくていいんだよ。』




あぁ、本当に。
うちの最年少はよく人を見ている。



「どうしたの。そんなに俺って不幸に見えてる?」




ちねん。
ちねんは正しいよ。
でも今はその正しさが眩しくて仕方ない。
だから、素直になれない俺を許して。









それからは2人でたわいもない話をして楽しんだ。






帰り際、知念に「ありがとう。」と言った。
知念はなんでもない顔をして
『僕だってたまには他人に奢ったりするんだよ。』
とくすぐったそうに笑った。
素直になれないところは俺たちそっくりみたいだ。






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作者名:あさり | 作成日時:2018年9月28日 4時

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