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もう閉館ギリギリだからかほとんど人はいなくて、いてももう帰る人ばかり。
ほぼ貸切状態の、この最高に癒される空間でゆっくりとクラゲを眺める。
…これが癒されるってことは、身体に反比例して心は疲れてるのかもしれない。
「ミズクラゲ、…綺麗だな、」
こんなにクラゲを見るのは初めてだったけど、身体が浮遊してくみたいな感覚になる。
このまま、どこかに行けそうな、そんな感覚。
『このまま浮いてどこかに飛んで行けたらいいのに』
「…え？」
不意に声がして振り返るとはっきりと顔は見えないけれど、ひとりの女性がいた。
同じようなことを考えていた事に、ドキッとした。
まるで心の中を見透かされてるみたいな感覚になる。
『あ、ごめんなさい、うるさかったですよね、独り言です』
「あ、いや…俺も、同じこと思ったんで」
『ふふ、そっか。…横、失礼してもいいですか？』
「あ、もちろん」
『ありがとうございます。…やっぱ綺麗、』
俺より数十センチか低い身長の女性は、ふんわりと巻かれた髪を揺らして俺の横に並んだ。
クラゲたちを照らしてる光で、透けるのではないかと思うくらいの透明感抜群の肌。
水槽の明かりが反射して、キラキラと輝く瞳。
艶のあるふわふわとした長い暗髪。
クラゲに負けないくらいの、息を呑む美しさ。
『あの、』
「っ、はい？」
『お兄さん、ひとりなんですか？』
「あぁ、まぁ、…はい」
『…珍しいですね、男性1人なんて』
「そちら、こそ」
『私は、クラゲ好きなんで』
まっすぐクラゲを見てた彼女が、俺を見上げる。
まるで時が止まったかのように、目が離せない。
「…あの、」
『ふふ、おにいさん見すぎ笑』
「あ、いや、…すみません、」
『…ねぇ、おにいさん、』
「はい…？」
『私とこのまま、どこか飛んでっちゃおっか』
「…は、」
『クラゲみたいに』
まっすぐ俺を見つめる瞳に吸い込まれるように
顔が近づいて…
どちらからともなく、互いの唇が重なる。
意味が、分からない。
それなのに、魔法がかかったみたいだった。
このまま、彼女となら
本当にどこかに飛んでいけそうな気がした。
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作者名：maoka. | 作成日時：2023年8月4日 19時
