チグリジア 2

下準備 ページ46

アピールするどころか私が勝手に翻弄された昨日。何故か負けず嫌いが反応してしまい、私もあのスカした顔面を髪のそれと同じ色にしてやりたいという気持ちが強まった。

しかし恋愛どころか人間関係初心者。母を怒らせまいと空気を察知する能力や、何度も初めましてを繰り返した習い事のおかげで当たり障りない対応は得意なのだが、それではダメだ。

正直普段ローレンと話している自分でさえ、兄の真似事の延長線上にある。そうすることが当たり前だったから、今更やめることはできない癖のようなものだ。本当の私はきっと泣き虫で意地っ張りで、面倒臭い女なのだろう。

そんな一面を見せるわけにもいかない。インターネットの検索履歴には「好きな人 アピール」、「友達から恋人」という文字列で埋め尽くされている。

多くみられる「2人の時間を作る」や「共通の話題を見つける」、「ボディタッチをする」についてだが、思い返してみればとっくに実践済みだ。2人で会うのはしょっちゅうだし、共通の話題だらけだし、お互い寄りかかったり、軽い触れ合いをすることは頻繁にあった。

え、もしかして詰み？これって未来ない感じ？と絶望しながら見つけた別の案は「イメチェン」と「匂わせ」の2択だった。

匂わせはうまくできる自信がないので除外するとして、イメチェンなら私でもできそうだ。目と口が大事らしい。やりすぎると己のアイデンティティを崩しかねないが、唇に色を乗せるくらいなら問題なさそうだ。

それから、いい香りをさせることらしい。香水の類はいくつか持っているが、しばらく棚の飾りになってしまっている。ローレンはどんな香りが好きなんだろうか。

「相手の好みに合わせる」というのもアピールにおいて大事らしい。かといって本人にいきなり聞くのも違う気がするし、どうやって知ろうか。

なんて悩む必要はなく、非公式wikiと切り抜きというありがたいものが存在する。

隅から隅まで読み尽くし、あらゆる切り抜きを見た。どうやらローレンはツンデレ系が好きらしい。2次元限定かもしれないが。

次に会う予定があるのは大会後のバンド練習だ。それまでに少しずつ準備を重ねた。ローレンの好きな香りの香水、藤士郎に学んだナチュラルメイクとヘアアレンジ。だいたい藤士郎任せになってしまったが、ノリノリで選んでくれた。

気合いは十分。明日はV最本戦がある。配信を休んでゆっくり見る予定だ。

みんなの活躍を願って目を閉じると、通話を知らせる通知音が鳴った。

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