… ページ45
故意ではないが、脅かして腰を抜かしている相手を置いて帰るほど俺も鬼ではない。治るまではそばにいようと決め、温かい飲み物を用意し雑談に耽った。
防音室ではないから控えめに話すAの声は、やたらと耳に馴染みが良い。それは脳を緩やかに溶かしていき、ふわふわと絆されていくような感覚。リンネが出すASMRや朗読が人気なのも高速で頷ける。
まだ聞いていたいと思っていても時間の流れはあっという間で、いつの間にかかなり時間が経っていた。
お礼がしたいと騒ぐAに、今日のこの時間で良いと伝えても納得していない様子。またこうしてAと話せたなら、本当に何もいらんのじゃけどな。
言わないでおこうとしていた本心は口をついて出てしまっていたようで、隣に座るAは一瞬目を見開いた。俺自身もびっくりして、慌ててふざけたように取り繕う。
俺を見たまま動かないAに気まずくなり今度こそ本当に帰ろうと腰を上げたが、急な重力に引っ張られそれは叶わなかった。
さっきと変わらない光景。なんだと下を確認すると、俺のパーカーの袖を握り締めるA。上半身を捻ってこちらを見ているが、視線を下げているため目は合わない。
声をかけようとする前に、小さな声で振り絞ったかのように発せられた言葉に驚愕した。
「寂しかった?」
不安そうに視線を揺らしながら、一生懸命に袖を握るその姿に愛しさが込み上げてくる。その問いに肯定して、今すぐ抱きしめたい気持ちを抑え、空いている手で固く握った拳を開いていく。
解かれた右手に自分の指を絡めては離れてくれるなと、ぎゅっと押さえつけるように握った。
その質問はあまりにもズルい。友達にするものではないと、彼女は気付いているのだろうか。ふざけて聞くこともあるだろうが、こんなにもいじらしく聞いてくるのはもう好きと言っているも同然。
顔を真っ赤にして、今にも泣き出してしまいそうな程に瞳を潤ませて。俺を好きだと叫んでいるその表情をもっとよく見たいという願望が募る。
嫌ではなく無理だと言ったのをいいことに、左手を頬に添えて持ち上げようとしたが上半身を捻って抵抗されてしまった。髪で隠れていた耳は顔と同じくらい真っ赤になっていて、笑みが溢れた。
熱を帯びた左手を彼女の頭上に持っていき数回撫でる。
関係が壊れることに怯えてセーブしていたが、もうその必要はなさそうだ。作戦はガンガンいこうぜに変更だな。
今はまだ、両片思いを楽しんだっていい。
552人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まつりか(プロフ) - ひかりさん» ひえ、生きがいにしてくださっているなんてお世辞でも私には過分なお言葉です…!ありがとうございます!捻り出して続き書きます! (2月18日 7時) (レス) id: b15522b6ae (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 更新ありがとうございます🩷今の私の生きがいです!これからの展開予想でドキドキしちゃいますね!応援してます(^^) (2月17日 22時) (レス) id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - ひかりさん» コメントありがとうございます〜〜〜!自己満足で書いているものですが、そう言っていただけてとても嬉しいです!やっと続きを思いついたので、またぼちぼち更新していく予定です! (2月15日 11時) (レス) id: b15522b6ae (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 最高です!優しい推しの姿想像してドキドキしちゃいました。続き楽しみにしています! (2月15日 0時) (レス) @page35 id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - あーこっとさん» こちらこそ読んでくださってありがとうございます!コメントまでしていただいてとても嬉しいです!感謝です! (10月9日 12時) (レス) id: 117b51e2b8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつりか | 作成日時:2023年10月8日 9時