チグリジア 2

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「よし」

メッセージを入れていざ帰ろうとしたとき、近くで電子音が鳴るのが聞こえた。反射的にそちらの方を見ると、何やら見慣れたシルエットがうっすらと浮かび上がっている。

声をかけてみたが返答がない。人違いだっただろうかと一応近寄ってみると、スマホの画面に照らされた顔面は間違いなくAだった。

安心してもう一度名前を呼ぶと、ガクンと崩れ落ち視界から消えた。突然のことで驚いたが、とりあえず起こそうと手を差し出す。何かに怯えたような顔と、一向に掴まれないことに疑問を覚えていると、大声を出すのでその手で慌てて塞いだ。

「ごめん」と発した口元の動きがやけにくすぐったくて、言いようも得ない感触に手を離した。妙な沈黙を破ったのはAで、何故ここにいるのかと懸命に聞いている。

経緯は省略し、差し入れのことを伝えると強張っていた表情がようやっと和らいできた。よかったと安心してまた微妙な空気になる前に帰ろうとすれば、真剣な声に引き留められた。

聞けば腰を抜かして立てないと。起こしてほしいとへらりと笑いながら手を伸ばしてくるAの可愛いこと。しかし腰が抜けているならそれではダメだろう。救護や訓練のおかげで搬送方法にはいくつか心得があるが、ちょうどよく膝を立てているのでこれが1番早いだろうとお姫様抱っこを選んだ。

すかさず首に腕を回してくるAに少しドキッとした。嘘、めちゃめちゃ心臓がうるさい。自分でやっておいてなんだが、筋肉質にみえて腕に当たる太ももは柔らかいし、いい匂いはするし。理性を保つのに必死で正直重さとかわからん。だから本当にそんな不安にならんでくれ。

そのまま家へと入っていき、もういっそのこと寝てくれという希望を込めてベッドに運ぼうとしたが、いつだったか「着替えてないのにベッドに転がるとか絶対無理。終わってる」と言っていたことを思い出し搬送先をソファへとチェンジ。

臭いと罵られながらそこへとおろす。さっきまで吸ってたしそりゃ臭いだろと1人納得していると、「嫌いじゃない」なんて爆弾発言が飛んできた。臭いに決まっているだろうに、自分の纏う匂いを嫌いじゃないと言われて嬉しくない奴がどこにおる？それはもう、好きじゃん。

Aの感謝と謝罪の言葉を聞いている間にお祭り騒ぎの鼓動を鎮火させ、怪しまれないようにふざけて見せる。

久々に心から楽しそうに笑うAを見て、今までの全てを許した。かわいっ、なんだこいつ。好きです？

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