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仮にもレディの寝室に無断で入るってどうなの、と非難の声をあげたいところだが運んでくれているので黙っておこう。ぐっと言葉を飲み込み、ベッドに降ろされそうになる直前、ぴたりと動きが止まった。
「っと、まだ着替えてないからベッドは嫌か」
「え」
「あれ、違った?前にそんなこと言っとらんかったっけ。俺としてはこのまま寝てほしいけど、一旦ソファか」
くるりと踵を返し今度はリビングへと向かっていく。なんとはない会話だっただろうに、覚えていてくれたことにきゅうと胸が締め付けられる。
胸の鼓動が伝わってしまわないかと心配になる私のことなどまるで意に介さないように歩き、扉の前で立ち尽くすローレンに苦笑しながら、片腕を離してドアノブに手をかければ「ありがと」と一言。お礼を言うのは私の方なのに。
「ここでいいべ」
ソファの前まで来ると、壊れ物を扱うかのごとく優しくおろされる。屈んだことで垂れてきたローレンの髪がふわりと私の顔をくすぐった。すんと鼻を鳴らすと、先程よりもダイレクトにタバコの香りを感じた。
「すまん、タバコ臭かったか?」
「ううん、いつもと同じ」
「えそれ俺がいつもタバコ臭いってこと?」
「うん」
「まあしない方がおかしいか」
「嫌いじゃないからいいよ」
街中ですれ違うタバコの匂いに嫌悪感を覚えなくなったのはいつからだろうか。今ではローレンを思い出すようになって、少しずつなんとも思わなくなった。むしろローレンが近くにいるような気がして、親近感すら覚えてしまうくらいだ。
お礼を言うべく、体勢を整えるために自身の身体に向けていた視線をローレンへと移す。ッスーと言いながら額を手で覆い下を向いている彼の奇行に思わずツッコミの声が出た。
「何してる?」
「いや、気にせんでくれ」
「そう…、まあいっか。ローレン、ありがとうね。差し入れもだけど、ここまで運んでくれたのも。不審者と勘違いしてごめんな」
「お礼なんかいいよ。俺が勝手にやったことだし、よなかに家の前に人がいたら誰だってビビるっしょ」
「それはそ」
「まさか腰抜かすとは思わんかったけど」
「うるさい」
ニヤニヤと含み笑いでこちらを見る彼をじとりと睨みつける。けれど助けてくれたのもローレンだし、善意からの行動だからこそからかわれていても強く言えない。
「ごおめんてぇ、冗談じゃん」
ふざけながら楽しそうに笑うローレンに釣られて、私も自然と笑顔をこぼした。
もう恐怖心はどこにもない。
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まつりか(プロフ) - ひかりさん» ひえ、生きがいにしてくださっているなんてお世辞でも私には過分なお言葉です…!ありがとうございます!捻り出して続き書きます! (2月18日 7時) (レス) id: b15522b6ae (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 更新ありがとうございます🩷今の私の生きがいです!これからの展開予想でドキドキしちゃいますね!応援してます(^^) (2月17日 22時) (レス) id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - ひかりさん» コメントありがとうございます〜〜〜!自己満足で書いているものですが、そう言っていただけてとても嬉しいです!やっと続きを思いついたので、またぼちぼち更新していく予定です! (2月15日 11時) (レス) id: b15522b6ae (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 最高です!優しい推しの姿想像してドキドキしちゃいました。続き楽しみにしています! (2月15日 0時) (レス) @page35 id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - あーこっとさん» こちらこそ読んでくださってありがとうございます!コメントまでしていただいてとても嬉しいです!感謝です! (10月9日 12時) (レス) id: 117b51e2b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつりか | 作成日時:2023年10月8日 9時