スタジオ ページ32
失恋ゲリラライブからしばらく経った日。私はあれから仕事に逃げるように予定を詰め込んだ。ライブが終わってから余裕のあったスケジュールだが、マネージャーに私ができることは全てやらせてくれと頼み込んだ。台本の執筆やコラボ、案件配信。歌とダンスの練習も時間を増やした。
けれど、どれだけ仕事を増やそうとバンドの練習からは逃げられない。嫌でも会ってしまう。もうにじフェスまで時間もなく、限られたあわせ練習でみんなは全力を尽くしている。私の身勝手な理由でぶち壊したくもないし、私も中途半端な気持ちでドラムを引き受けたわけではない。
幸いにも一曲は昔に叩いたことがあったから、スタートは出遅れたものの仕上がりは二曲とも上々だ。スタジオに向かうと、部屋の前でスタッフさんと談笑しているローレンが目に入る。
「ちわ〜、ローレン早いじゃん」
「たまたま近くに用があってさ、終わってそのまま来た」
「やる気満々じゃん」
「そらそうよ」
実際、ローレンの練習量は恐らくこのバンド内で1番だろう。「俺が1番できてないから」と、当然のように努力をする姿を私がバンドに入る前から間近で見てきた。
きっとその姿を見ていたのも私だけではないのだろう。好きな子にもベースを背負ったまま会いに行っていたのかな。ローレンはフットワーク軽いから、呼び出されたら普通に来たりするし。ああ、これから練習だってのに嫌だな。
ハハッと、乾いた笑いが思わず口からこぼれた。
「…リンネは最近忙しそうだけど、ちゃんと寝れてるん?」
「うん、睡眠はとってるよ」
「目の下にクマ作ってて説得力なさすぎじゃない?」
「え、隠してきたのに」
「はい嘘〜、クマなんてないよ」
まんまとローレンのかけた罠に引っかかってしまったことにぐうっと唇を引き結ぶ。寝ているのは本当だ。ただ、睡眠時間が短い状態が続いているだけ。嘘をついてはいないのに、なんとなく気まずくて視線を右左に動かしていると、頭にぽんと軽い衝撃が走る。
「Aが頑張りたいなら止めないけど、心配するから無理はすんなよ」
そっと見上げれば真っ直ぐに私を見ていたローレンと目が合う。少しだけ眉間にしわが寄っていて、どこか怒っているようにも感じたがそれは一瞬にして姿を消した。代わりにパッと笑顔を作ると、頭に置かれた手がわしゃわしゃと動く。
「わ、おい!やめろって」
「ンフッ、ぼさぼさすぎ」
「誰のせいだよ」
楽しいけれど楽しくない、地獄のような時間だ。
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まつりか(プロフ) - ひかりさん» ひえ、生きがいにしてくださっているなんてお世辞でも私には過分なお言葉です…!ありがとうございます!捻り出して続き書きます! (2月18日 7時) (レス) id: b15522b6ae (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 更新ありがとうございます🩷今の私の生きがいです!これからの展開予想でドキドキしちゃいますね!応援してます(^^) (2月17日 22時) (レス) id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - ひかりさん» コメントありがとうございます〜〜〜!自己満足で書いているものですが、そう言っていただけてとても嬉しいです!やっと続きを思いついたので、またぼちぼち更新していく予定です! (2月15日 11時) (レス) id: b15522b6ae (このIDを非表示/違反報告)
ひかり(プロフ) - 最高です!優しい推しの姿想像してドキドキしちゃいました。続き楽しみにしています! (2月15日 0時) (レス) @page35 id: 066d5681b9 (このIDを非表示/違反報告)
まつりか(プロフ) - あーこっとさん» こちらこそ読んでくださってありがとうございます!コメントまでしていただいてとても嬉しいです!感謝です! (10月9日 12時) (レス) id: 117b51e2b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まつりか | 作成日時:2023年10月8日 9時