冷たい溺愛カップル【安室透/降谷零】 (ページ49)

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平行世界の自宅警備19 ページ49

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《輝夜において》

今日は帰れない、という連絡が来たのは日付が変わる僅か数分前のこと。

「やれやれ、今日"も"帰れないの間違いだろうに」

起きていた私は大きく伸びをする。

ソファーの下に座っていたが、そのまま溶けるように床に寝転ぶ。

「……」

目が冴えている。

最近は忙しかった。

彼に関する仕事だから、必然的に彼も忙しい。

口を開くより電子データで報告書を読んだ方が早い。

というわけで、この数日は顔も会わせず、ショートメッセージのみでやり取りをしていた。

「帰れない連絡はいらないんだけど」

読むのも返すのも面倒だ、という言葉を忘れたのだろうか。

帰れるならば1秒でも早く帰ってこればいい。

連絡をいれる暇があるなら早く終わらせて帰ってこい。

私は、

「零と帰る場所が同じであればいい」

暗い部屋に吸い込まれて消えた独り言に、笑みが浮かぶ。

どうやら私はかなり疲れているらしい。

久しぶりにカーテンを開けると、夜空には切って貼ったかのようなまんまるな月が輝いている。

指先で引っ掻いたら、ぽとりと落ちてきてしまいそうな、そんな月。

思わずぽつりと溢した。

「…竹藪ごと光ってそうだね」

まるで物語の始まり。

三寸の姫君も降り立ちそうな、光輝く月。

彼が死んだ日もこんな月だった。

彼が殺された日も、彼が死を選んだ日も、彼女を見殺しにした日も、こんな絵に描いたような月。

「…阿呆らしい」

救済だなんて。

「貴方たちが居た(・・)から今の彼があるのに」

ふとした瞬間に闇に囚われそうになる不安定な彼。

私の愛しい旦那様。

「オキヤさんも守ってあげないと」

まだ退場してもらっては困るのだから。

「日本も守らないと」

だって彼に愛されているのだから。

「あー、はやく終わらないかな」

二本目のワインボトルを空にした。

ケタケタと笑って。

「あのガキに薬渡すのが一番早いかな」

三本目のワインボトルに手をかける。

ぽん、とコルクが外れて転がった先で携帯が明滅していた。

「ぷはぁ、うま。ねえ、どう思うよリィ君」

『バッシィの酔ったふり(・・)はマジウケる』

「水を差すねぇ」

酔いが冷める。

『別の世界で生き急いで Bad End 引いたの忘れちゃった？』

「あれも True End だよ。彼は私から一生離れられなくなった」

電話の向こうでリィ君もケタケタと笑う。

『んで？次はどの end 狙ってんの？』

「あは。分かってくるくせに」

既に歯車は回っている。