冷たい溺愛カップル【安室透/降谷零】 (ページ47)

今日:6 hit、昨日:47 hit、合計:395,577 hit

平行世界の自宅警備17 ページ47

・

《とあるホテルの仕事人》

「ちょっとごめんねえ？」

間延びした口調で会話に割り入った。

声をかけるまえに気配を感じていたのか、外人の男が機敏な動きで後退する。

そして銃を構え一分の躊躇いもなく発砲してきた。

「＿」

二発。

胸と腹部を狙って撃ち込まれる弾丸は寸分の狂いもなく体のあった場所を通過していく。

「すぐに撃つ判断をしたのは素晴らしい」

躊躇したら自分が死ぬ。

その瞬間の判断力と的に当てる技術は、簡単に手に入るものではない。

「善い人になれるのにね、貴方も」

窓の外、階下から聞こえてくるのは突入の喧騒。

ホテルのロビーで別れ、ゆっくりと階段で上ってきたこのフロア。

どうやら他の客はエレベーターでとうに逃げた後らしく、誰の目にも止まることなく部屋まで辿り着くことができた。

「なんだ、お前は」

「なんだって……」

誰だでもなく何と聞くだなんて、流石に失礼じゃないか。

向けられたままの銃口に苦笑すると、やっと頭が追い付いたらしい今回のターゲットが喚き出した。

「な、なんだこの女はっ！とっとと仕留めろ！」

部屋の調和を乱す不釣り合いに豪奢な椅子に、醜い生物が乗っている。

ぶくぶくと太い指を締め付ける磨かれた石が油分で光って見えた。

自らの悪事が直接的に、リアルタイムで見られたことに動揺しているターゲット。

そのあからさまな様子に同情すら芽生えてしまう。

勿論、雇われた彼にだ。

「ねえ、今なら救うわ。縄をかけるのに協力してくれる？」

銃口は動かない。

「なぜ入ってこなかったんだ」

代わりに、問いが返された。

その目線は床に、正確には血溜まりに倒れ伏している女に向けられている。

体は浅い呼吸に上下していた。

「かなり前から、部屋の前に気配があった」

「私は賭けに勝つタイプでね」

貴方は殺せないと思ったから、腹部を刺された彼女もまだ生きている。

「私と貴方は共犯者なの」

伸ばした指先が銃口に触れた。

「ここにまだ貴方がいて、私がいる意味。分かるでしょう？」

突入して制圧することも、武器を抜くこともしていない。

薬漬けと瀕死を目にしても動いていない理由。

「あんたほどの腕が、どうして犬なんかに」

「あら、忠犬にみえて？」

にっこりと微笑んでやれば、目の前の男は静かに銃を下ろす。

「悪いが、俺も詳しくはしらない」

「それでいいわ」

未だに喚くターゲットに縄をかける。