自宅警備3 ページ4
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「そろそろ帰られてはどうですか」
「まだ終わってない」
積もった書類に目が霞んできた。
先程から、いや毎日毎時間気にしている携帯は一音も鳴ることなくただ無情に時刻を表示している。
「心配されてますよきっと」
「誰が。あいつが?」
まさか、と鼻で笑う。
「そんな女じゃない」
そう、家にいる彼女が心配をしているわけがない。
また12を越えた時計は新しく時を刻み始めた。
「もうとっくに寝てる」
だから、連絡なんて来るわけない。
そもそも向こうから連絡が来たことがあっただろうか。
思い返す限り、無い。
この前帰ったときにテーブルに置かれていた携帯には、うっすら埃が積もっていた。
携帯の使い方を忘れてそうな彼女が脳裏に浮かんで頭を抱える。
「また降り出してきた」
「…」
いつの間にか窓際へ移動していた風見がポツリと呟いた。
ボタボタと雨音がぶつかって水滴を散らし、風が強さを増して唸る。
『嫌な天気だねぇ』と頭の中で彼女の声が響く。
つまらなそうな顔をして、窓ガラスを指先でつつくのだ。
『家から出ない理由にはなるけど』
よっこらせ、と軽やかに椅子から立ち上がってキッチンへ消えていく影。
ソファに深く座っていた自分は、彼女との遠い距離にため息をつく。
互いに、見えない壁を作っている。
目を閉じれば、連日の疲れのせいだろう、睡魔が襲ってきて微睡みかける。
そのすぐ隣に。
『よいしょっと』
『!!』
ふに、と柔らかいものが左半身に寄りかかってきて脳が覚醒する。
目に当てていた右手をそっとずらせば視界に入る後頭部。
『♪*♭』
足をパタパタさせながら紡がれはじめた鼻歌に、口がニヤけそうになるのを必死に堪える。
可愛いすぎて辛い、なんて絶対に言わない。
『二人で家にいるのも悪くない』
その呟きを寝たふりで聞き流す雨の日_
「_さん、降谷さんっ」
「_っあぁ、」
「大丈夫ですか、やはりもう帰った方が」
「そうだな、そうさせてもらう」
「はい、って ええっ」
驚いてるようだが生憎構ってる暇がない。
何度も打ち込んでは消した電話番号だ、最後に押すボタンにだけ注意すればすぐにかかる。
今にも寝落ちしそうな声で出た彼女に一方的に捲し立てて電話を切る。
雨で濡れることは気にならない。
出迎えた彼女を抱き締めて共に風呂に入り寝る。
素直になれないのはお互い様のはずだ。
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梦夜深伽(プロフ) - 明里香さん» ありがとうございました! (2020年7月3日 17時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 16に誤字がありました。「じゃかいか」ではなく、「じゃないか」です。 (2019年4月25日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2018年6月1日 22時