自宅警備20 ページ21
・
走る。
「っはぁ_ッはあ_ッ」
地面どころか、木々を蹴って駆け抜ける。
息を吐く。
息を吸う。
考えるより先に足を動かす。
口に残る苦いキスの味が、喉の渇きで更に濃くなる。
「ッあぁ_」
足枷に捕らわれて転ぶ。
咄嗟に受け身を取るも、勢いを殺しきれずに大木に強かに打ち付ける。
「がふァ_………あぁ、もう!」
当たりは真っ暗で、見渡せど黒い森しか広がっていない。
生い茂る木々は空を多い尽くしていて、きっと満天の星空だろうが何も楽しめていない。
着替えたドレスは裂けていて、とてもじゃないが返せるような状態ではなくなっていた。
ミシミシと嫌な音をたてる筋肉と、癒えるそばから傷ついていく素足に悪態をつきながら立ち上がる。
乾いた血の匂いが鼻をかすめた。
ジンと別れたのは十分ほど前のことだ。
生憎と時計は持っていないので最早正確な時刻は分からない。
ジンの足止めに成功して、服として機能を果たさなくなったレザースーツを闇に紛れて脱ぎ捨てた。
ベルモットが用意してくれていたバイクに隠し積まれていた服を手にとる。
『…まぁ、悪くない』
この身体は、汗をかくことは愚か、体温調整も必要ない。
ならば、愛しい人の前では美しくということだろうか、粋な演出だ。
喪にふくすような真っ黒なドレス。
サイズはピッタリ、靴はなかった。
『これは予想が外れてほしかったな』
ガラクタになっているバイクはうんともすんとも言わない。
ジンが壊したことは本人から聞いた。
『おかげで走らなきゃならない』
ベルモットだってそれを見越して靴を用意しなかったのだろう。
下手な靴を履くぐらいなら、裸足の方が速い。
ポルシェの運転席の窓に肘をかける。
通り雨だったのか、雲の合間から射し込んだ月光が不気味に銀を輝かせる。
うっとりと、数秒見つめた後で数本掬いとり口づけを落とす。
『私ね、ジンの髪が好き』
それにね、
『ここで死ぬとね、彼を救えないの』
だから、殺さないでいてあげる。
『とびきりの睡眠薬3錠で漸くなんていうのは予想外…いや、予想はしていてもさすがに驚くな』
音をたてて口に残った睡眠薬を噛み砕く。
冷めた視線を夜空に向けて、静かにポルシェから離れる。
森林に一歩、柔らかい土に素足が触れたところでゴクンと飲み込んだ。
『_』
唇をなぞる。
薬の多用で、
開く瞳孔とつり上がる口角。
地面をえぐって、前へ走り出した。
569人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梦夜深伽(プロフ) - 明里香さん» ありがとうございました! (2020年7月3日 17時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 16に誤字がありました。「じゃかいか」ではなく、「じゃないか」です。 (2019年4月25日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2018年6月1日 22時