閑話:春の少女 ページ25
真選組。
くちゅん!、と可愛らしい音が響いた。
土方が書類から顔をあげ、
沖田がアイマスクを上へずらせば
もう一度、くちゅん!、と音が響く。
先程よりも近くから聞こえたその音源は
どうやら開いている襖の廊下側にあるらしい。
また音が響いて、今度は廊下を、
部屋の前を手鞠がコロコロと転がっていく。
この男所帯で可愛らしい手鞠を持っているのは
マニアックな輩か真選組の姫のみである。
予想通り、それを追いかけて走っていったのは
小さな女の子で、すぐに戻ってきたAは
部屋に入るなり鼻水を少しすすった。
その目はほんのりと赤くなっていて、
手鞠を片手で持って空いた手でぐりぐりと擦る。
「どうしたA、泣いてんのか」
「土方さんに泣かされたのか、
書類相手に瞳孔かっぴらいてるからですぜィ」
「仕事をしねぇテメェに怒ってんだよ!
人が必死こいて片付けてるってのに
その真後ろで呑気に昼寝たぁいい度胸だな!」
「じゃあ別のところでサボってきやす」
「仕事をしろっつってんだよォ!」
「くちゅん!」
「…A?」
「くちゅん!…くちゅん!」
小さな体が音に合わせてくの字に曲がり、
その衝撃を殺せないのか手鞠が前へ転がって
対照的に軽い体は後ろへ跳んでしまいそうだ。
2、3回続けて音が響いた後、
ようやく顔をあげたAが涙目を擦る。
「…今の、くしゃみですかィ?」
「コク_くちゅん!」
「風邪か?」
「フル_くちゅん!…くちゅん!」
「おい、大丈夫か」
答える前にくしゃみでヘドバンしてしまうので、
そうなのか否か分かりはしない。
近づいた土方がふらついたAを支えると、
目だけではない、顔もほんのりと赤く熱っぽい。
春風邪ですかィ、と額に手を当てた沖田と
その行為に気持ち良さそうに目を閉じたA。
「…熱がある」
「……」
土方が差し出したティッシュで
上手に鼻をかむA。
静寂の訪れた部屋にまた
Aの可愛らしいくしゃみの音が響いた。
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2018年3月2日 23時