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交差世界の迷宮解読1 ページ32



[私が良ければ全て良し]


今日から三日間、社長が出張でいない。

探偵社に寄るからと朝早くに玄関に立つ其の姿を見送りにAも起きている。

「お気を付けていってらっしゃいませ」

「朝早くに済まない」

「着いたらご連絡くださいね」

「うむ」

弁当だ絆創膏だと一週間前から準備していたAは相当な気の入れ用だ。

戸が開いて、二人分の足音が出て行く音がする。

外まで見送りに出るらしい。

「…、……、…」

「……」

丁度街も起き出して、騒がしくて聞き取れない。

如何やら近所のおばさん達も会話に混ざっているようだが_

「本当、お似合いの二人ねえ」

そりゃそうだろう。

「其の着物も夫婦物でしょう? 良いわねえ」

……え?

…夫婦。

え、誰が、社長とAが?

「……、」

返答は喧騒に飲まれて消えてしまう。

お似合いね、と云う言葉が脳内でぐるぐると回る。

ガラガラと戸が閉まる音がした。

下駄を脱ぐ音はAが和装、着物の証拠。

其の後ぴたりと途絶えた音に蒲団を被り目を固く瞑る。

微かに畳の軋む音がして空気が揺れる。

「…」

僕が未だ寝ていると判断したらしく何も言わずに遠退いていく。

しゅるりと帯を解き、ぱさりと落ちる音。

次いで布が落ちる音。

細かな布擦れの音を僕の耳は拾い上げる。

心臓が煩いのは、何も考えられないのは。

「…流石にねみぃな。くあぁぁあ」

気怠い声でぼそっと呟いて遠慮なしに欠伸をする。

乱暴な言葉遣いはAが気を抜いた事を示す。

本当は、料理も掃除も苦手で面倒臭がり。

其れがパチパチとスイッチのように切り替わる。

そして気を抜いたAは_

「乱歩」

「_ひっ」

ばっと蒲団が剥がされる。

ちゃんと握っていた筈なのに容易く持っていかれて少し泣きそうだ。

直ぐに蒲団は帰ってきたのだけど、Aも蒲団の中へ入ってきている。

ぴたりと後ろから抱き付かれて柔らかな感触が寝間着越しに伝わってくる。

僕の脇の下から伸びてくる腕は細く白く、そっと目を下にやると生脚が見える。

あぁ矢張り、矢張り、

「Aっ服は!」

「…浴衣羽織ってるよ」

「はだけてるだろ!」

「何だ今更。生娘でもあるまいに」

社長や皆がいる前では大人しい淑女を演じているのに、二人きりになると途端にこうだ。

不味い。

非常に不味い。

こんな状況で_

「二度寝しよう。私の愛しい人」

_愛を囁かれたら。

不安がぐずぐずと溶け出して、体温と微睡みに沈んでいく。

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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!超面白いです!思わず一気読みしちゃいました!更新楽しみにしてます! (2022年2月6日 2時) (レス) @page47 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2021年5月16日 19時

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