冷たい溺愛カップル【江戸川乱歩】 (ページ23)

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迷宮解読22 ページ23

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「大変ですー！」

勢い良く開いた扉は其のまま壁に当たった衝撃で弾むように外れる。

飛んだ破片がひとつ国木田の飲んでいた珈琲に落ち、もうひとつは先程まで僕がいた場所を通過して行った。

「如何したんだい賢治。忘れ物かい？」

「違いますよ！此れ、見てください！」

「ん？」

「何ですか此れ」

「Aの字に似てるねぇ」

A？

開けようとしていた駄菓子の袋から目を離し顔を上げる。

与謝野さんと目が合った。

嗚呼、其の顔は確かにAの字だと確信している顔だ。

「今日のご飯は漬物です、確かに漬物の匂いがします」

「良い匂い」

「僕に見せろ」

今日は刺身の予定だった筈だ。

…確かに漬物だと書いてある。

「漬物屋のトメさんが言うには、丁度大体半刻前に伝言を置いていったそうです」

「丁度なのか大体なのかどっちなんだい…」

「トメさんはいつもそんな感じですから！」

「そ、そうかい」

Aは買い物と決めたら寄り道はしない。

荷物持ちに敦を呼べと言ってあるのに使った事もない。

商店街を通り、時には駅の方まで歩いて品物を見てから帰り道に買って来る。

漬物屋は商店街の手前、そして少し入り組んだ道を通る為、いつも最後に寄る。

鼻腔を擽る漬物の匂い。

急いで書いたのだろう、A特有の癖の有る筆記体。

無意識に手が動いている。

眼鏡を抑えて一言、放つだけ。

「『超推理』」

其処で漸く探偵社が静寂に包まれている事に気が付く。

何だ。

皆すっかり殺る気で話が早い。

「Aはビルの屋上からヘリに乗るところだ」

詰まりは空中戦。

「三分後に最接近。方角は南西＿」

「乱歩」

「…社長」

重たい大きな武骨な手が頭に乗る。

帽子越しに伝わる熱が暖かく、体に入っていた無駄な力が抜けていく。

「Aを信じろ」

「…うん」

連れ去られたにしては移動が遅い。

Aが自分で移動しているからだろう。

詰まりAも、僕を信じて動いているのだ。

あぁ、其の想いに答えなければ。

「僕は名探偵だ」

Aの考えを、最適解を、読め。

「『超推理』」

脳裏を巡るヨコハマの地理、情勢、天候、交通状況。

Aと交わした挨拶、会話、献立、触れるだけの口付けと甘い吐息。

流石は名探偵、と静かに吐く優越の音。

冷淡な瞳の奥に確かに宿る熱量。

書き残した手紙の其の意を、読め。

「…閉鎖病棟、屋上のヘリポートに九分後だ」

「総員、Aの援護に向かう！」

「「はい！」」