迷宮解読19 ページ20
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「Aー」
眩しい。
トントンと包丁の音がするから、恐らく台所にいるのだろう。
目を開けたら負けだ。
目が冴えて二度寝出来なくなる。
「Aー」
よって布団の中から声を出す。
包丁の音が止んで次は火を付ける音がした。
直ぐに味噌の良い匂いが漂ってきて、着々と朝御飯の準備が進んでいることが分かる。
「Aー」
「なぁに乱歩」
「!」
存外近くから。
直ぐ背後から声がして驚愕に肩を揺らす。
勢い余って目をぱちりと開けてしまって、正面から浴びた陽光にしばしばと瞬きを繰り返す。
「遅ようお寝坊さん。顔洗っといで」
「…驚愕した」
「何度も呼んで呉れるから」
省略した言葉は可愛くて、だ。
不満を露に口を曲げるとAはクスクスと笑う。
「福沢さんも待ってるよ。卵焼きももう焼けたから」
早くおいで。
既に目は台所の方に向いていて、立ち上がりながらAは僕の頭を控えめに撫でて行く。
足りない。
「またぴよになってるよ」
ちょんと摘ままれたのは後頭部の寝癖。
雛鳥のようだといつも笑う。
不貞腐れるのを止めてそっと見上げると、Aは目を細めて笑っていた。
朝陽よりも眩しく、お菓子よりも甘く、何よりも好き。
足りた。
「福沢さん、お味噌汁は私がやりますから!」
あっと言う間にぱたぱたと部屋から出て行ってしまう。
もう眠気なんてない。
布団が暑いくらいに身体も熱い。
早く顔を洗って、櫛で解かすのはAにやって貰おう。
「福沢さん、お漬物はどのお皿が良いでしょう」
「鉢が良いだろう。Aでは届かないな、私が取ろう」
「有り難うございます。一口大で良いですか」
「其れは乱歩が好きだから多目に切って呉れ」
「承りました」
台所は大きい社長と小さなAで丁度いっぱい。
くるくると背後を回るAの姿が見えているかのように社長も動く。
まるで_
「む、起きたか」
「乱歩」
卵焼きどっちが良い、なんて。
どっちでも良い。
ちゃんと白出汁と砂糖の二種類焼かれている其れを見に僕も台所に入る。
狭いからぴったりとAにくっついて、動きにくいと目で訴えられても其れを承知で僕を呼んだのだから受け付けない。
「どっちも食べる」
「乱歩」
おはようの挨拶は?
「…おはよう」
「お早う。早起きだな」
「おはよう。福沢さんとの朝食に間に合って良かったわね」
出勤には間に合うかしら、と僕の寝癖と寝間着を見て思案を巡らせるAを抱き締めた。
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!超面白いです!思わず一気読みしちゃいました!更新楽しみにしてます! (2022年2月6日 2時) (レス) @page47 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2021年5月16日 19時