第68話 敦side ページ28
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むくりと起き上がったのは一人ではなかった。
とうに空になったラムネの瓶をカラカラと鳴らして眺めていた江戸川乱歩。
愛読書を片手に長椅子で横になっていた太宰治。
突如として上体を起こした二人に、探偵社中の注目が集まる。
国木田さんまでもが明らかに空気の変わった様子に手を止めた。
酷く真剣な表情をした二人は顔を見合わせて頷く。
「…太宰」
「…乱歩さん」
そのただならぬ気配に室内には緊張感が張り詰める。
一瞬で静寂に包まれた空間、二人の声が揃って響いた。
「「来る」」
カッ、と世界が白に染まる。
かと思えば、光さえも飲み込む闇色に視界が塗り替えられた。
虎の眼をもってしても、先の閃光で眩んだためか何も見えない。
仄かに鼻を擽るのは甘い甘い砂糖菓子の匂い。
闇が縮んでいく。
閃光の中心の場所へ黒い影が集まり、徐々に人の形を取る。
柔らかに揺れた闇はスカァトの裾に、黒く波打てば細やかな刺繍のされた洋装に。
黒の表層が剥がれては雪よりも白い肌が露になる。
音も無く、床に降り立った彼女は伏せていた長い睫毛を僅かに震わせた後ゆっくりとあげた。
青い、蒼い、異国の光彩。
「……約束は無いのですが」
宜しいでしょうか、とAさんはほんの少しだけ寂しそうに笑った。
「如何したんでしょうかAさん」
「さてね。太宰は兎も角、乱歩さんが付いてりゃ大丈夫じゃないかい」
三人は今、喫茶うずまきで話をしている。
太宰さんがしれっと連れ去って行った。
乱歩さんが、太宰と出てくると一言言えば国木田さんだって許可するしかない。
「あれが例の女」
「鏡花ちゃんは会うの初めてだよね」
以前探偵社に来たときは、事件があって彼女も長居はしなかった。
其の為、丁度鏡花ちゃんと入れ違いになっていたのだ。
「あんなの初めて見た」
言葉少なに考え込む、小さな手は両膝の上で服に皺を作っている。
「鏡花ちゃん?」
震えた声で続きが紡がれた。
「あれが、本物の闇に咲く花」
闇に咲く花は闇にしか憩えぬ
いつかの言葉が脳裏に甦る。
光を求めても その熱量に焼き殺されるだけ
「違う。彼女の闇はきっと光も熱も飲み込む」
鏡花ちゃんの体は震えていた。
「…あんなの、勝てる訳がない」
「Aは意味も無く襲ってきたりしない」
いつの間にか戻ってきていた太宰さんが、考えの読めない表情で口角をあげる。
「彼女は闇で輝く。他の何よりもね」
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檸檬 - とっても面白いですね!つい一気読みしちゃいました。更新楽しみにしてます! (2020年12月27日 23時) (レス) id: b134bf3ec5 (このIDを非表示/違反報告)
青い夕日 - 好きです。頑張ってください! (2020年7月2日 21時) (レス) id: e84367e7a0 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - コメント失礼します。 とっても素敵な作品ですね!! 今、一気読みしてきました! 更新頑張ってください!!! (2020年6月20日 13時) (レス) id: b682e16ecf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年6月17日 15時