第62話 中原side ページ21
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彩色の波が押し寄せAの姿を飲み込んだ。
其れは、辺り一面に拡散していく。
「_ゲホッ、グッう、」
酸素を持っていかれて呼吸が苦しい。
(なんで…)
炎が残るような環境ではなかった。
扉が開いた瞬間に着火したように見えた。
「A…」
目を凝らす。
本来なら目も閉じるべきだろうが、Aの無事を確認する方が先だった。
広がったお陰か密度は多少にも小さくなったようだ。
壁に凭れ、膝をつく其の姿を見つける。
爆弾と云っても煙幕のようなもの。
至近距離ではあったが目立った外傷のないことに安堵する。
「一度退くぞ」
声をかけるも反応がない。
それどころか、様子がおかしい。
ゆらりと体が揺れた。
ふらふらと立ち上がり俺とは反対側になる通路の奥へ。
未だ煙を吐き出し続ける格納庫の中へ、進んでいく其の表情が一瞬だけ見えて_
「___ッ!!」
_ゾッとした。
恍惚として色欲に塗れた『女』の顔。
日焼けを知らない白い肌、弛む頬は赤く上気し、瞳の氷晶はまるで青い焔のように燃え上がっている。
俺の方に一瞬だけ視線を流した、俺のことなんて全く見ていなかったけれど。
どくん、と心臓が高鳴った。
爆風に煽られ乱れた髪をそのままに、瞳を妖しく爛々と輝かせて唇に狂気的な笑みが浮かぶ。
其の表情で、其の声で、名を呼ばれたなら。
若し、其の瞳が俺に向けられていたなら。
「……手前は、俺の補佐だろうが」
何処へ行こうと云うのか。
彩色の霧の、甘く濃密な花の香りを深く吸い込む。
もう毒だとかそんなことは如何だって良かった。
Aの姿は後少しで闇に踏み入れてしまう。
「……あぁ………___…」
何かを求めるように。
何事かを呟き手を伸ばす。
其の腕を、強く掴んだ。
「____Aっ!」
『闇』が逃げる。
そんな気がした。
「………ぅゃ…」
ぼんやりと虚ろな眼が俺に焦点を結ぶ。
氷が熔けて潤んだ瞳と、微かにでも囁かれた俺の名に何かが満たされていく。
「しっかりしろ」
抱えようとしたら逆に腕を引かれた。
首に腕が回り、身体が密着_抱き締められている。
「ちゅうや」
耳元で。
「…… す き 」
「!!」
後頭部に手が回る。
両目を塞がれる。
足払いをかけられ呆気なく倒される。
腹部に感じる重みと暖かさ。
咄嗟に伸ばした手はふに、と柔らかな何かを握る。
「待て、違」
「ちゅ」
塞がれた唇と共に、思考も閉ざされた。
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檸檬 - とっても面白いですね!つい一気読みしちゃいました。更新楽しみにしてます! (2020年12月27日 23時) (レス) id: b134bf3ec5 (このIDを非表示/違反報告)
青い夕日 - 好きです。頑張ってください! (2020年7月2日 21時) (レス) id: e84367e7a0 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - コメント失礼します。 とっても素敵な作品ですね!! 今、一気読みしてきました! 更新頑張ってください!!! (2020年6月20日 13時) (レス) id: b682e16ecf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年6月17日 15時