第15話 ページ16
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着いた場所は廃工場のようだった。
もう潰れてから何年も経っているらしく、元が何かも分からぬ金属片がそこらじゅうで朽ち果てている。
普段は人どころか生物の気配を感じないであろう場所が今は、大勢の人間に囲まれていた。
「あの中か?」
「はい、出入り口は全て封鎖済みです」
「この廃工場の周辺一帯を封鎖しろ」
「はっ」
来る途中で概要は聞いていた。
裏切った輩がこの廃工場に逃げ込んだこと、厄介な異能力を有しており危険なこと。
ポート・マフィアは働いた分だけ給料が貰えて休みもちゃんと取れる良い会社だが、いざとなれば休暇なんて関係ない。
近くにいて動きやすかったとは云え、幹部が呼ばれたのだから大事なのだろうなとぼんやり考えていた。
「突入は俺とAで行く」
「…はい」
私なんか置いていった方が邪魔にならないと思うのだが。
振り返らずに歩き始めた中也の後をゆっくりと追う。
夜だった。
月明かりもない暗い夜。
騒がしいプロペラ音で旋回するヘリコプターによって照らされる廃工場だけが不気味だった。
「準備はいいな」
「はい」
分厚く重い、金属の塊のような門。
侵入者を堅く拒むそれに中也は片手を添えた。
「『汚れつちまつた悲しみに』」
その瞬間、風もないのに空気が揺れる。
光の粒子が宙を舞い、中也の口許にニヒルな笑みが浮かぶ。
「…綺麗」
これが闇を取り仕切るポート・マフィア五大幹部の力。
ふと数刻前の太宰さんの言葉を思い出す。
彼も_
ドォォォン!!
「おぉ…派手に飛ばしましたね」
「景気付けだ」
轟音の正体は門扉がひしゃげ吹き飛ぶ音だった。
着地点にまた別の金属でもあったのか、何かを巻き込んで崩れていく音が暫く続く。
「私が先行しても宜しいですか」
「もう居場所が分かったのか」
「何故私が分かると思われているのか疑問ではありますが」
先日、目標に一直線で走ったからだろうな。
「ほぼ間違いないかと。不確定にお付き合い頂けますか」
敷地内に足を踏み入れていた中也は愉快だと言わんばかりに笑う。
「いいぜ。付き合ってやるよ」
「ありがとうございます。では参りましょう」
私は頷き、くるりと廃工場に背を向けた。
「あ? おい、何処に行く」
「任務の内容は裏切り者の始末及び内部情報の奪還でしたね」
「今更怖じ気づいたか?」
「恐らく此処に敵はいません。そして」
両耳を塞いだ。
「間も無くこの廃工場は爆発します」
夜が明るく染めあがる。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時