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・ 太宰side ページ6






じゃあ、ばいばい。


片手をヒラヒラと振って、

散歩にでも行くのかと錯覚しそうになる程

あっさり、彼女は扉から出ていった。


見渡す限り、彼女の痕跡は無い。


記憶の探偵社と相違ない。


きっと今の私は、上手く笑えていない。


自分の椅子まで歩くのも面倒で、

ずるずると壁に背を預けて座り込む。


意識の遠くにささくれのような違和感が残る。


知らない。


知らない。


分からないのに。


「………………彼女は、………誰なんだ」


分かりやすく敦君が息を飲んだ。


どうして、私だけが知らない。


「どうして_っ」


「太宰」


ゆるゆると頭をもたげると、珍しく棒付き飴を

未開封のまま弄ぶ乱歩さんが窓の外を見ていた。


其れ(・・)は僕らからは言えない。


自分で見付けろ。他に方法は無い」


「…自分でって」


情けない声に、自分が一番驚愕した。


何を焦っていた?


知らない人が居なくなった探偵社は

私の知るいつも通りの探偵社だ。


関係無いと、彼女自身が言ったではないか。


「ふふ……はははは」


「……あの、太宰さん?」


「嗚呼、敦くん。


私が寝ている間にすっかり大きくなったね」


「ぇ…太りましたか、僕」


「甘いお菓子を食べ過ぎたんじゃないかい?」


机に広がるお菓子の数々。


駄菓子から、洋菓子、和菓子まで。


其の中で、曲奇餅(クッキー)を一枚放り込んで


「パキッ……っん…」


音を立てて咀嚼する。


ほら、見た目が美しいだけで塩味がする。


「…当たりだろう?」


指先についた粉を舐めた。


それはほんのりと、甘い。


大方、慌てて後から砂糖を足したのだろう。


「扨、次のヒントを呉れるね?」


名も知らぬ彼女に辿り着く為。


彼女の残したものを追う。


何か、誰かには隠したまま、

近づかねばならない。


「太宰」


与謝野女医は此方を見ずに立ち上がる。


「買い物に付き合いな。


良い酒屋を見付けたんだ」


「私は怪我人だよ?」


「暇人だろう?」


「はは、違いない」


「与謝野女医…」


不安そうに声をあげた敦くんに

普段通りに言葉を返していく。


「偶には夕方から買い物にも行くさ。


誰かは川に流れて寄り道してくるかも知れないがね」


その言葉に含まれる意味は。


彼女が最後に見せたあの表情は。


「……とっとと行くよ。着いて来な」


「はいはい。そう急かさないで呉れ給えよ」

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名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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