検索窓
今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:13,650 hit

・ 安吾side ページ34






そう、一人だけ。


この事件を操作(・・)出来る人物。


咲き吹雪く花の嵐の中心で、微笑んでいる女。


照明を潰された暗い空間に警告の赤が明滅して

異常事態を知らせる鐘が鳴り止まない。


「どうして?! 有り得ないッ、

『異能力』は行使出来ないはずなのにッ!」


「はい。この牢では不可能です」


背後で辻村君が息をのむ音が聞こえた気がした。


またひとつ、花弁が壁を、床を、天井を削る。


「坂口先輩? 何してるんですか、

あの女を捕まえとく良い機会だって_」


街で連続心中事件が起き始めて、

それが異能力者によるものと断定され、

探偵社に、正確には"花屋"に調査依頼を出した。


"花屋"の女は内務省と協力関係にあり、

異能力という分野において莫大な利益をもたらす。


その能力を手の内で囲み飼いたいなど、

あわよくばなんて、考えるべきではなかったのだ。


ドンと重く、突き上げるように揺れた。


よろけて倒れる直前に、濃密な椿の匂いに包まれる。


「あら、気を付けなくてはだめよ」


氷が手首に触れていた。


透き通る薄氷のような肌、漆黒の絹糸の髪、

まるで宝石を嵌め込んだような血の赤の瞳。


美しさよりも、恐ろしさが勝る。


「奥の美人は『私』を見るのは初めて?


幸運ね、"七日目"になるのは稀なのよ」


「最後の疑問点ですが」


「無視……あと少しで崩れるから早めにね」


機器は最新のものを揃えても、建物自体が

昔に閉鎖されていたため老朽化が進んでいる。


話す傍から天井が崩落し、陽の光が射し込む。


「何かな。安吾なら全部分かってると思うけど」


特務課は依頼を出しておきながら

水面下で調査を続けており、犯人を特定していたし

既に拘束したとの連絡が入っていた。


それは"花屋"の来る直前。


協力する、なんて建前で

牢に入れ飼い殺しにするため。


その牢も後は朽ちるのを待つのみ。


「本当に、貴女には敵いませんね」


「そう寂しいこと言わないでよ」


既に『曽根崎心中』が解除されていること、

つまり犯人が捕まったことは分かっているはず。


そのうえで『恋椿姫』を解かないのは、

その恐ろしさで怒っているわけではなく

全力を出せてただ楽しいからだろう。


無邪気に悪意を剥き出しにする花嵐が

僅かに残る天井をまとめて空へ打ち上げる。


青い空の頂点で、

花を纏った日輪が白く輝いていた。

・→←・


ラッキーアイテム

名も知らぬ人からの微笑み


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (28 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
47人がお気に入り
設定タグ:文スト , 太宰治
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。