・ 安吾side ページ34
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そう、一人だけ。
この事件を
咲き吹雪く花の嵐の中心で、微笑んでいる女。
照明を潰された暗い空間に警告の赤が明滅して
異常事態を知らせる鐘が鳴り止まない。
「どうして?! 有り得ないッ、
『異能力』は行使出来ないはずなのにッ!」
「はい。この牢では不可能です」
背後で辻村君が息をのむ音が聞こえた気がした。
またひとつ、花弁が壁を、床を、天井を削る。
「坂口先輩? 何してるんですか、
あの女を捕まえとく良い機会だって_」
街で連続心中事件が起き始めて、
それが異能力者によるものと断定され、
探偵社に、正確には"花屋"に調査依頼を出した。
"花屋"の女は内務省と協力関係にあり、
異能力という分野において莫大な利益をもたらす。
その能力を手の内で囲み飼いたいなど、
あわよくばなんて、考えるべきではなかったのだ。
ドンと重く、突き上げるように揺れた。
よろけて倒れる直前に、濃密な椿の匂いに包まれる。
「あら、気を付けなくてはだめよ」
氷が手首に触れていた。
透き通る薄氷のような肌、漆黒の絹糸の髪、
まるで宝石を嵌め込んだような血の赤の瞳。
美しさよりも、恐ろしさが勝る。
「奥の美人は『私』を見るのは初めて?
幸運ね、"七日目"になるのは稀なのよ」
「最後の疑問点ですが」
「無視……あと少しで崩れるから早めにね」
機器は最新のものを揃えても、建物自体が
昔に閉鎖されていたため老朽化が進んでいる。
話す傍から天井が崩落し、陽の光が射し込む。
「何かな。安吾なら全部分かってると思うけど」
特務課は依頼を出しておきながら
水面下で調査を続けており、犯人を特定していたし
既に拘束したとの連絡が入っていた。
それは"花屋"の来る直前。
協力する、なんて建前で
牢に入れ飼い殺しにするため。
その牢も後は朽ちるのを待つのみ。
「本当に、貴女には敵いませんね」
「そう寂しいこと言わないでよ」
既に『曽根崎心中』が解除されていること、
つまり犯人が捕まったことは分かっているはず。
そのうえで『恋椿姫』を解かないのは、
その恐ろしさで怒っているわけではなく
全力を出せてただ楽しいからだろう。
無邪気に悪意を剥き出しにする花嵐が
僅かに残る天井をまとめて空へ打ち上げる。
青い空の頂点で、
花を纏った日輪が白く輝いていた。
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名も知らぬ人からの微笑み
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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時