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・ 安吾side ページ32






「太宰君なら、かなり前に来ましたよ」


「うん。入れ違いになるように来たからね」


雪のように白い肌、呂色の艶やかな髪、

弧を描く赤椿を思わせる唇。


少し気だるげな表情が

そこはかとない色気を醸し出している。


作られたような美貌は正しく人外の域。


「お茶をどうぞ」


「これは御丁寧に。


客みたいに扱われるのは初めてではないかしら」


「未だ問題を起こしていないからです」


「あは。これから起こすのは違いない」


美味しそうにお茶を啜る彼女は

そう言って以降、黙ったまま座っている。


鍵のかかる重厚な音が鈍く鳴って、

漸くといった様子で長椅子に倒れ込んだ。


「しんどい」


「今日が七日目では?」


「さっさと働いてこいと?


もう少し労ってくれてもいんじゃない」


恨めしげな声を聞き流して、

持ち込まれた報告書に興味を移す。


「連続心中事件、情報統制が上手くて助かるよ」


「犯人と接触したのなら

そのまま制圧して頂きたかったのですが」


「七日待つって言ったのはそっちだろう。


何より『曽根崎心中』は強力な異能だよ?


時と場合によっては私の能力よりも、ね」


無機質で照明も乏しい空間に運ばれた長椅子。


寝転ぶ女のせいか、数分前よりも違和感がない。


「……報告書を見る限り、今回も回りくどいですね」


「間違いを訂正せず真実を伝えなかっただけよ」


全く反省する気のない笑顔で笑っている。


「どこの神に勾引(かどわ)かされたか知らないが、

私以外が聞いたらまず正気を疑うよね」


「直感で貴女にこの件を預けましたが

どうやら正解だったようで安心しました」


「不正解なら正解にするのも私の役目だよ」


どんな手を使ってでも。


それが愛する人の為になるのならば。


その愛しの人に忘れられると云うのは、

彼女自身が思ったよりも辛かったらしい。


「初めて会った時以来だよ。

視線だけで殺されそうになったの」


「惚気よりも報告をお願いします」


「これが惚気に聞こえるんだから

安吾もかなり慣れてきたよね、私に」


「よくもそんな恍惚とした表情で語れますよね」


嫌味にも嬉しそうに微笑むのは、

それを嫌味だとも感じていないからだろう。


「そうだね。このままだと

十時間後ぐらいには死んじゃうし、

さっさと始めようか」

・→←第五章 『未知』


ラッキーアイテム

名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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