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・ 太宰side ページ3






眩しい陽の光で目が覚めた。


開け放たれた窓掛(カアテン)が空調の風に揺れている。


まだ身体は起こさない。


……彼女は、どうやら居ないようだ。


若しや繰り返す『未遂』の果てに

見た幻覚(ゆめ)だったのか。


その考えはすぐに否定される。


[ ↑温めて食べること ]

付箋に走り書きされた彼女の痕跡。


探偵社の誰でもない、

決して上手いとは言えない特徴的な字。


付箋に従って器を覗き込む。


これは……卵粥か

もうすっかり冷めている。


一匙掬って匂いを嗅いで、そのまま口に運ぶ。


毒入りだったら、なんて考えが過ったが

この苦味はただ焦げただけらしい。


少し欠けた粥に、解した蟹の身が見えていた。


食べられなくは…ない

特別、美味しい訳ではない。


空の器に匙を入れて漸く、

いつの間にか完食していた事に気が付いた。


……空腹だった故だ

ほら、敦君だってあんなにお茶漬けを食べたし。


普段よりも多く食べてしまった気がする。


程好い満腹感に息が漏れる。


落とした視線が、

また走り書きに吸い寄せられた。


そういえば、温めるのを忘れていた

こんなことが前にも_


ないな。

あるわけがない。


深く考えるより先に、

走り書きの続きに気がついてしまう。


[ 夕方には戻ります ]

窓の外、太陽は真上。


彼女が戻ってくる、ここに。


部屋を見渡すと次々と見つける。


私以外の跡、二つ目の生活用品の数々。


知らない。


知らない。


わからない、筈なのに。


窓掛に当たって落ちたらしい物達の

元の位置が分かる。


明らかに女物の食器や装飾、服。


『昔』のことも、探偵社のことも、覚えている。


思い出せる。


国木田君の口座番号も、与謝野女医が購入した高級酒の在処も、社長が最近愛読している猫と仲良くなる本のことも、中也の家に忍び込んで仕掛けた十八の罠も、森さんの秘密も、凡て。


昨日のことのように思い出せる。


ならば何故_


_彼女の記憶だけない?


知らないのか、思い出せないのか。


傾いていく太陽を、ぼんやりと眺めていた。

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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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