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「いらっしゃい。どんな花をお探し?」


「…成る程ね」


笑ってしまわないように、

努めて真剣な顔をして声をかけた。


季節外れの砂色の外套、癖のある柔らかな濡れ羽色の髪。


星が一つもない、深く澄んだ夜空のような瞳。


真冬の氷のように冷たい。


「偶然通り掛かってね。


余りに綺麗だから覗いてみたのさ」


「あは。美人にはサービスしちゃうよ」


「そうかい。じゃあ折角だから

医務室に飾る花、適当に見繕って貰おうか」


「お任せください」


与謝野ちゃんが勝ち気な笑みを浮かべている。


それだけで少し安心した。


「………こんなもんかな」


帰るまでに萎れないように、

ほんの少しだけお呪いをかけて。


振り返ろうとして、自分が影に居ることに気付く。


まだ陽は落ちきっていない。


雲に遮られてもいない。


答えは一つしか無いじゃァないか。


「出来上がったよ、お客さん」


「………そうだね」


私に声をかけられて、成る程ねと意味深に

言ったきり黙りこくっていた彼が



直ぐ背後に立って手元を覗き込んできていた。


「与謝野女医なら財布を預けて帰ったよ」


「じゃあお客さんに渡せば善いんだね」


「……」


手渡しているのに、受け取らない。


其の瞳は真っ直ぐに私を射抜いている。


「何処に行けば、取り戻せるんだい」


「…随分な冗談だね。


其の頭脳に勝る者無しと

云われた男が解答を欲しがるとは」


「性格悪いって云われないかい?」


「あは。誰かさんに似てって付くかな」


ほら、早く受け取って。


「……貴女は、私に関係無いと言ったね」


「そういう約束をしたからね」


「触れれば『終わる』。違うかい?」


「其れが正解だと思うのなら、

貴方に選択肢は一つしか無いんじゃない」


只、淡々と。


なんてこと無いように言葉を紡ぐのは得意だから。


へらへらと、余裕ぶって対峙する。


「さァ……如何するよ?」


怯むなんて有り得ない。


貴方だってそうでしょう。


「背中の傷」


「___。あっは。気付いてたンだ?」


「血の匂いには敏感なんだよ。


………私が刺した。そうだね?」


「……」


一を聞いて十を知る。


百聞は一見に如かず。


その『一』すらもないままに。


「お代はいいよ」


花を片手で無造作に掴んで遠ざかる背中。


見えなくなったところで私は口角をあげた。


嗚呼、彼の人は本当に賢い。

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名も知らぬ人からの微笑み


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6月の飴玉 - 様々な視点で描かれているので、とても新鮮でおもしろいです!! (2020年5月18日 12時) (レス) id: 913e8668f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2019年7月9日 16時

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