アガパンサスの花束を君に。 (ページ9)

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普段はカウンター越しか電話越しにしか話したことがないから、運転している姿はかなり新鮮で。小さめの音量で流れてる洋楽も、そのリズムにのってる有岡さんも、全部全部見たことなくて、思わずじーっと見つめてしまう。

「ねぇ、見すぎ」
「だって、運転してる有岡さん新鮮で」
「かっこいいな〜って？」

半笑いの有岡さんとバックミラー越しに目が合う。口を閉ざした私にまた笑いかける有岡さん。…何をやっても絵になるな。単に好きだから？そういえば無言は肯定になるんだっけ。これ以上無言の空間も耐えられないし、もういっそ伝えてしまおう。

「かっこいいですよ、有岡さんはいつもいつも。アイドルやってるときも、送ってくれてる今も」
「Aちゃんさぁ…、それよくない」
「だって有岡さんが小馬鹿にしてくるから」

素直に褒めればダメだって言われた。訳のわからないうめき声をあげて、項垂れるようにハンドルにもたれかかった有岡さん。とりあえず家に着くまでは安全運転でお願いしたい。

「ご褒美の話なんだけどさ、」
「私ができる範囲でのことならなんでもしますよ。あ、でも土地買えとか2億ちょうだいとかそういうのは無理です」
「Aちゃんは俺をなんだと思ってるの」
「今をときめくスーパーアイドル？」

バカにしてるだろってムッてされた。それすらも可愛いなと感じてきてしまって、気付いていなかったけど私そこそこ重症みたい。

「本題に入るけど、全部終わったら俺とデートしよ」
「は、」
「ダメだった？」
「ダメじゃないけど、ダメ」

なんでもするってさっき言ったじゃん、なんていう抗議も聞こえてくるけどそれはそれ、これはこれだ。私は未成年、有岡さんはアイドル。どこに行くのかは知らないけど、見つかったら一環の終わりだよ。

「有岡さんのアイドル人生奪うことはできないです」
「今回きりにするから！だめ？」

信号待ちで暇だったのか、こちらに振り返って懇願された。うるうるな黒目がちの瞳でお願いする姿は、やっぱりどこかトイプードルに似ている。

「ほんとに今回だけですからね」
「まじ！？やった！！」

アイドルとデートの約束をしてしまった。未成年、ましてや私は高校生。相手はアイドルでいて常連客で。本当にこれでよかったんだろうかと思考を巡らせながら、どっちが大人なんだかわかんない有岡さんのリアクションに頬が緩んだ。