アガパンサスの花束を君に。 (ページ7)

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夏真っ盛り。ますます蝉も騒がしくなってきた、熱帯夜の続く今日この頃。夏休みになって、殆ど叔父さんのお店でアルバイト漬けの毎日だ。

朝から夜まで働き詰めだけど、様々な業種の方とお話できるのは好き。有岡さんも有岡さんで、大型番組の番宣に系列の色々な番組に出ているのを最近よく見かける。私も頑張らないとね。

夜勤といっても、9時前までには帰してくれるんだけど、今日はどうやら忙しい日みたいで、10時前にあがらせてもらった。エプロンを外して、鞄の中のスマートフォンを確認する。

両親からの不在着信が1件ずつ、有岡さんからの不在着信が2件と、私の安否を確認するメッセージが数件。とりあえず有岡さんに今あがりです、とメッセージを返しておく。

「叔父さん、お先失礼します」
「夜遅いから送る」
「今日忙しいんだからいいよ、一人で帰れる」
「悪ぃな、変なやついたらすぐ電話しろよ？Aになんかあったら姉ちゃんに顔向けできねぇ」

お母さんにも電話したから大丈夫、と笑いながら返して店を出る。数本の裏道を抜ければ駅近の繁華街だから、ここさえ切り抜けちゃえば余裕。

そう、余裕だと思っていたのだ。数分前までは。何やら後ろをつけられている気がする。気の所為であってくれと、少し小走りで距離を取れば、後ろの『何か』も小走りで距離を詰めてくる。

やばい。これはまずいと本能的感が告げている。とりあえず叔父さんに電話、とスマートフォンを取り出せば、有岡さんからの着信。思わず足を止めそうになったけど、立ち止まったら何されるかわからないので距離をとる。

『もしもし？Aちゃんお仕事お疲れ様！』
「お疲れ様です、今ちょっとつけられてるっぽくて」
『は？つけられてんの？近くに大人はいる？』
「いないです、私一人」

まじか、と電話越しに呟かれた言葉。こんなシチュエーション人生で早々経験してないのでかなり不安。私生きて帰れるかな、なんて縁起でもないこと考えちゃう。

『…俺が迎えいくから、近くのコンビニまで全力で走って。このまま電話繋いでていいから』
「わかりました、」

ぐっと足を踏み込んで、あまり足には自信が無いけど全速力でコンビニを目指して走る。どうやら後ろの『何か』も追いかけきているみたい。怖い。

「私っ、これ死なないですよね」
『大丈夫、死なないよ』

有岡さんの大丈夫っていう声のトーンも、言葉遣いも、全部全部私の恐怖心を解してくれる魔法みたいで。