アガパンサスの花束を君に。 (ページ15)

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久しぶりに叔父さんのお店に向かう。1ヶ月お休みしていたとはいえ、さすがに駅からお店までのルートは忘れてはいないし、開店前の清掃も仕込みも全然覚えたままだった。…もちろん、オムライスの作り方も。

夏の大型番組も終わって、9月という夏と秋の入り交じったような季節。冬の年末近くほども忙しくもなく。つまりは今日も今日とて暇なわけで。

特にやることも無く、有岡さんの出演が決まったドラマの原作小説を読む。記憶が一日でリセットされてしまう女性探偵と、そんな女性に恋をする不幸な男性のミステリーラブストーリーだ。

有岡さんが出演するドラマだからっていう理由で読み始めてみたけど、面白くてひたすら読み進めてしまう。

「…ちゃん、Aちゃん！」
「うぉっ、びっくりした。すみません。ようこそ、いらっしゃいませ」
「Aちゃんがそんなにのめり込むとかどんな本なの…」

有岡さんに名前を呼ばれて、そういえば勤務中だったことを思い出す。気づけばひょいと取りあげられた読みかけの小説。カバーがついているからパッと見はわからないかもしれないけど、少し読んだら絶対わかる。だって出演者なんだもん。

にやけ顔の有岡さんが目に入った。それ以上話しかけられるのが恥ずかしくて、オムライス作りに取り掛かる。

「俺のために読んでくれてたりする？」
「作者さんが好きなので！物語シリーズ昔から読んでるので！」
「ふ〜ん？」

作者さんが好きなのも、物語シリーズを読んでいることももちろん事実だ、事実なのだけれど。

鏡を見ずとも、私の顔も耳も真っ赤なことくらい有岡さんのにやけ具合を見たらわかる。この人にだけは絶対バレたくなかったのに！